沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

  • 最近の投稿

  • カテゴリー

  • 2024年5月
    « 4月    
     12345
    6789101112
    13141516171819
    20212223242526
    2728293031  
  • アーカイブ

  • 法律相談
  • 顧問契約

46)ローン難民!?

 最近、「ローン難民」という言葉を見聞する機会が急増した。
 本年6月18日に完全施行された「改正貸金業法」の影響である。

 改正法の目玉は、近時の最高裁判例により有名無実化していた「グレーゾーン金利」の撤廃と「総量規制」の導入である。

 総量規制というのは、簡単に言えば、「年収の3分の1」までしか新規に借り入れられなくなるという規制のことで、規制対象となるのは、消費者金融での借入やクレジットカードによるキャッシングなどである。
 年収300万円の人なら、借入額が100万円に達したところで融資ストップというわけだ。

 つまり、借りたくても借りられなくなる「ローン難民」が急増するであろうということなのだが、「難民」という言葉は、権利を侵害され、救済されるべき人達という印象を与える点で、やや違和感がある。

 もともと、年収の3分の1もの高利の借金をしていること自体、家計が破綻している証左である。
 いずれ破綻に向かうのだから、破綻するきっかけ自体を事前につみ取ってしまうことは、権利侵害というよりも、これこそが「救済」とさえ言えるはずだ。

 ちなみに、銀行のカードローンやクレジットカードによるショッピングは今回の規制対象外で、自動車ローンや住宅ローンなども対象外となっている。

 同じクレジットカードなのに、キャッシングだけ規制対象で、ショッピングは対象外というのは、何だか「???」という感じだが、キャッシングは貸金業法の守備範囲で金融庁が監督官庁、ショッピングは割賦販売法の守備範囲で経済産業省が監督官庁という違いがあるためだ。
 例によって、くだらない縦割り行政によって足並みが揃わなかっただけのことだろうが…。

 というわけで、案の定、最近では、「ショッピング枠を現金化します!」という商売が横行しており、新たな社会問題と化している。
 
 この商売、仕組みは簡単で、大きく分けて2通りのパターンがある。

 1つは、利用者がクレジットカードで商品を購入し、その商品を業者が定価よりも安く現金買取するというもの。買取額は、定価の3~7割程度らしい。

 例えば、10万円の商品を5万円で業者が購入すれば、利用者は、5万円の現金融資を受けたのと同じ経済的利益を享受する。
 そして、クレジットカード会社には10万円を返済することになり、5万円が利息相当額となる。

 クレジットカード会社への返済が2ヶ月後だとすると、上記の場合、2ヶ月で50%の金利が発生したことになるから、年率では300%(!)という大変な暴利となる。

 もう1つは、利用者が業者の商品を直接購入し、業者がキャッシュバックをするというもの。通常、購入する商品は無価値である。商品が無価値なので、キャッシュバック率は9割以上と高率である。

  例えば、定価10万円とされた無価値商品を定価で購入し、9万円のキャッシュバックを受けると、1万円が利息相当額となる。
 業者は、何もせずに1万円を確実に儲けられるので、そこまでムチャクチャな高利にする必要がないというわけだ。

 借金をしようとする人は、当然、クレジットカードのキャッシング枠は限度額一杯まで利用してしまっているので、ショッピング枠が現金化できるとなれば、藁にもすがる気持ちで飛びついてしまうのだろう。
 もちろん、こんなものを利用したところで、破綻の時期をちょっとだけ遅らせる程度の効果しかないのだが…。
 借りる本人も、「分かっちゃいるけど、止められない。」ということなのかも知れない。

 ところで、総量規制が導入されることとなって、マスコミでは、「専業主婦」にスポットを当てて報じることが多くなった。
 当然、専業主婦は収入がゼロなので、全ての専業主婦が総量規制に引っかかってしまうからだ。
 
 だが、「ローン難民」などと騒ぎ立て、専業主婦を「被害者」のごとく象徴的に取り上げる論調には、疑問を抱かずにはいられない。

 本来、専業主婦は借金すべきではない人達なのであり、一旦、借金を始めてしまえば、十中八九、破綻に向かっていくはずだ。
 その間、消費者金融を儲けるだけ儲けさせ、最後には債務整理や破産申立によって弁護士や司法書士を潤すだけのことなのだ。弁護士自らが言うのも何だが…。

 収入の無い人が、いとも簡単に借金が出来る社会。
  これこそが異常なのである。
 簡単に借りられるからこそ、真剣に家計を改善することを検討せずに借りてしまうのではないか。
  まさしく、「供給こそが需要を喚起する。」ということなのだ。

 ある調査によれば、消費者金融で借金をしている専業主婦の4割が「夫に内緒」なんだそうな。

 そもそも、夫に内緒で借金をする時点で、夫婦関係は正常ではない。

 夫に内緒にする理由は、妻の浪費や独身時代からの借金だったり、夫に話すと家計の管理能力を責め立てられるということらしいのだが、夫婦間の信頼関係がそこまで消失してしまっているのかと嘆きたくなる。

 一方、夫に相談した上で借金している残り6割の専業主婦はどうかというと、これはこれで、家計が正常ではない。…というか既に破綻している。

  夫に相談した上で、敢えて、妻の名で借金をせねばならないということは、夫の名ではもはや借金が出来ないということを意味する。
 つまり、既に目一杯の借金をしてしまっているケースがほとんどである。

 総量規制の導入により、年収300万円の人であれば、100万円までしか借金ができないこととなった。
 100万円を3年で返済すると仮定すると、年利18%で返済月額は3万6000円強となる。利息は3年間で30万円強である。

 年収300万円なら手取り月額は20万円弱であろうか。
 家賃を払って、飲食費を払って、水道光熱費を払って、携帯電話代を払って、自動車ローンを払って、……なんていうことをしていたら、月額3万6000円の返済は相当キツイはず。

 そもそも、消費者金融を「賢く利用」することは、もの凄~く難しい。

 グレーゾーン金利が撤廃されたとは言っても、年利は18%が基本であるから依然として高利には違いない。
 
 消費者金融は、その名のとおり「消費者」が利用する金融である。
 消費者である以上、経済活動としては、稼いだお金を「消費」するだけのことである。
 事業者のごとく、稼いだお金を「投資」に回して、さらに稼ぐという「生産」活動は全く想定できない。

 そうすると、返済開始となる月以降の収支が、基本的に「黒字」でない限り、返済できるはずがないのだ。

 小学生でも分かる実に簡単な理屈だが、多くの消費者金融利用者が、生活の収支が「赤字」の状態でジャンジャン借りてしまうものだから、返済資金を調達するために新たに借金するという最悪の悪循環に陥り、アッという間に多重債務者となってしまうのだ。

 借金というものは、「借金返済のための借金」をするようになったら、その時点で「ジ・エンド」である。
 後は、一気に「多重債務→支払不能→自己破産(夜逃げ)」というパターンに陥ってしまう。

 多重債務者は、この「借金返済のための借金」に対する認識が甘すぎる。
 どうも、B社から借りてA社に返済するというと、借金の返済先がA社からB社に変わっただけだと思っているようだが、とんでもない誤解である。

 借金の返済先がA社からB社に変わっただけと言えるのは、B社からの借金を「全額」A社の「元金」に充当した場合だけである。
 
 ところが実際は、B社からの借金は、A社の元金以外にも、利息に充当したり、生活費にまわしたりするであろう。

 こうなると、利息や生活費に相当する金額だけ、確実に「元金が増加」したことになるのだ。
 つまり、借金返済のための借金というのは、「利息が新たな利息を生む」という「重利」の状態を、債務者自らが率先して作り上げていることに等しい。

 多くの多重債務者は、この「重利」に気付かず、「元金が減るどころから、増える一方なんです…。」と言って相談に来るが、当たり前のことなのだ。

 私が弁護士になって間もない頃は、今のように「過払金」に関する判例など存在せず、消費者金融の幹部連中が長者番付に名を連ねていた時代であった。
 消費者金融が我が世の春を謳歌するがごとくの大盛況であったのに対し、自己破産を申し立てる人もやたら多かったという印象がある。

 弁護士が作成する破産申立書には、決まり文句のように「ついには、借金返済のための借金をせざるを得ない状況に陥り、借りては返しを繰り返すうち、利息が利息を生んで、借金は雪だるま式に膨張していったのである。」ということを記載したものだ。
 まさに、これこそが「重利」なのである。

 重利とは複利と同義であるが、ニュアンス的には、複利というのは債権者サイドからの言い方、重利というのは債務者サイドからの言い方だろうか。
 かのアインシュタインが、「人類最大の発明は複利である。」と言ったそうだが、それほどまでに、重利(=複利)というものは恐ろしいものなのだ。

 資産が複利でどんどん増殖していくのは大変嬉しいことだが、借金が重利でどんどん膨張していくのは自殺行為だ。
 毎年、本当に借金苦で自殺してしまう人も大勢いるし…。

 ちなみに、複利(=重利)には、「72の法則」というのがあり、72を年率で割ると、元金が「2倍」になるまでに要する年数が分かる。

 例えば、年率3.6%で資産を運用すれば、20年で2倍になるという計算だ。
 同様に、借金も、元金を返済しない限り、年率18%であれば、4年で2倍になってしまうのだ。

 くどいようだが、借金をしても大丈夫なのは、家計の収支が「黒字」の人だけである。
 今のような世の中、一時的に収入がダウンすることはあり得るし、緊急にまとまったお金が必要になることもあろう。
 従って、一時的に家計が「赤字」になるのは仕方がない。
 そんなときこそ、消費者金融を「賢く利用」するチャンスなのかも知れない。

 だが、年間を通じてでも、家計が「赤字」だという人は、借金などは絶対にすべきでない。
 家計の根本的な困窮は、もはや民間では救い切れない。まさに政治の出番である。
 
 先日、テレビのインタビューで、専業主婦と称する女性が、「借入を突然拒否されて、頭の中が真っ白になりました。明日から、どう遣り繰りをしたらいいのか分かりません…。」などと答えていたが、「???」という感じである。
 この口ぶりからすると、恒常的に借金を繰り返していることは明らかであり、既に借金で借金を返済する生活に陥っているはずだ。
 すると、それはもはや「遣り繰り」と呼べるようなものではない。

 借金で借金を返済するということは、「重利」によって借金を膨らまし続けているに過ぎず、毎年毎年、赤字がどんどん累積するだけなのだ。当然、永久に借金完済できる日などやって来やしない。

 うん……?
 この状態、どこかの国の財政状況にソックリかも……。