沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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223)KAROSHI

「神様、会社行きたくないです」
「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい」
「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」

これは、昨年12月25日、過労自殺に追い込まれた元電通社員(24歳女性)のSNS上での「心の叫び」だ。

電通では、労使協定上の残業時間を「月間70時間以内」と規定しているものの、
多くの社員が、その上限を超えて残業しているのが常態化していたそうだ。
ところが、さすがに労使協定を守らないワケにもいかないので、
電通では、「自主申告」の名の下、残業時間を過少申告するのが通例だったらしい。

今回、過労自殺に追い込まれた女性も、
自殺した前月が99時間、前々月が130時間の残業があったのに、
申告上は、前月が69.5時間、前々月が69.9時間と「させられていた」とのこと。

過労死ラインというものがある。
月間45時間以内の残業は「青信号」、
月間45時間超の残業は「黄信号」、
2~6ヶ月の平均で、月間80時間を超えると「赤信号」、
月間100時間を超えると「赤信号」だ。

この女性は、完全に「赤信号」状態で労働していたことになる。

う~む。
本当に可哀想すぎる話だが、
ちょっと冷静になって、「辞める」という選択が出来なかったことが悔やまれる。
勿論、その人の個別事情までは分からないが、
過労=睡眠不足=判断力低下という図式であるから、
単純な「辞める」という合理的判断すら出来ない精神状態だったのだろう。

言うまでもなく、仕事は、人生を幸せに生きる「手段」に過ぎない。
その仕事が、人の命を奪う「凶器」と化したワケだから、こんな悲しいことはない。

過労死という言葉は、英語で直訳すれば、「Death from overwork」なんだろうが、
一言で表現する単語としての英語は存在しない。
英語でも「KAROSHI」と表記されるほど、日本特有の社会病理現象だ。

では何故、日本では、「死ぬまで働いてしまう」のだろうか?

私も明確な答えは持ち合わせていないが、
欧米と比較して、極端な「転職のしづらさ」が背景にあるのではなかろうか。

日本の場合、「新卒採用」と「終身雇用」が今でも主流である。
新卒の学生が、何らかのビジネススキルを持っているはずもないので、
彼らは、「就職」するのではなく、「就社」するのである。
そして、「まっさら」な状態から、その企業の文化に「染まっていく」ワケだ。

加えて、日本は、アメリカのようにバンバン解雇できる法制度にはなっていない。
正社員を解雇するのは非常に難しい。
ということは、企業側は、やすやすと正社員を採用できない。
結局、日本の労働市場では、転職自体が極めて難しくなる。

つまり、企業側からすれば、新たな即戦力の正社員を採用できない以上、
今いる正社員に「とことん長時間働いてもらいたい」ということになるし、
労働者側からすれば、辞めた後の転職が厳しい以上、
理不尽な命令でも「長時間労働を我慢するしかない」ということになる。

日本の厳しい「解雇規制」は、確かに労働者保護につながっている。
だが、その解雇規制が、労働者の転職困難を招いているのだとしたら、笑えない話だ。
安倍内閣が推進する「解雇規制緩和」も、全く検討に値しないワケでもなさそうだ。

ところで、過労死ラインというのは、経営者には該当しない。
私も、この半年間ほどは、完全に過労死ラインを超えて働いている気がするが、
まだまだ、体はピンピンだ。
それに、私の労働時間など比較にならないほど長時間働いている弁護士も多い。
でも、みんな元気そうだ。

やはり、自発的にやる仕事と、上から命じられてやる仕事とでは、
人間の心に与えるストレスは、質的に全く違うんだろうね。

話がそれてしまったが、
とにもかくにも、過労死を防ぐには「しっかり眠る」ことに尽きる。
過労死ライン自体、確保できる睡眠時間から逆算して規定されているほどだ。

そして、「眠れない日が続いている」と実感したら、
すぐに「この職場はダメかも?」と自問して頂きたい。

仕事のために命を落とすなんて、美談でも何でもないからね。