沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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210)医学系研究の倫理

本年3月25日、私が外部委員として所属する
「三重大学医学部附属病院 臨床研究倫理審査委員会」
が、厚生労働省から、
「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づく、
「質の高い審査体制が整備されていること」
について、正式に「認定」を受けた。

この倫理審査委員会の「認定制度」は、平成26年度からスタートした制度で
あり、平成26年度・27年度の2年間で認定された機関は、日本全国で、
わずかに「15」だけである。

日本全国には、倫理審査委員会は約「1400」もあるそうなので、
そのうちの「15」に選ばれたことは、実に誇らしいことだ。

ちなみに、その「15」機関は、次のとおり。

(平成26年度認定)
・京都大学大学院医学研究科
・大阪大学医学部附属病院
・長﨑大学病院
・慶應義塾大学医学部
・順天堂大学医学部附属病院
・国立精神・神経医療研究センター
・国立病院機構
・国立病院機構大阪医療センター
・国立病院機構名古屋医療センター

(平成27年度認定)
・三重大学医学部附属病院
・東北大学
・愛媛大学医学部附属病院
・藤田保健衛生大学
・兵庫医科大学
・国立国際医療研究センター

では、倫理審査委員会って何?
ということになろう。

医学系研究というのは、動物実験を経た後は、最終的に、
どうしたって、「人」を対象(被験者)とせざるを得なくなる。

その際、医学の発展の名のもと、
被験者の人権が侵害されかねない、という重大問題に直面するワケだ。

そこで、その研究が「倫理的」に許容されるか否かについて、
研究者とは違う第三者の視点で審査するのが、倫理審査委員会である。

審査のポイントは、大凡、次のとおりだ。
1)医学的正当性(科学性)
2)利益相反性
3)被験者の負担の最小性
4)被験者への補償措置
5)インフォームド・コンセント
6)同意の任意性
7)個人情報の保護

2)の利益相反というのは、営利団体から巨額の研究資金を提供してもらって
いるなど、医学の発展という公益と相反する私益の存在が指摘されやしないか
といった問題である。
つまり、私益が不当に大きければ、公益に資するはずの研究データが改竄され
てしまうリスクが生じるということ。

ところで、医学系「研究」は、あくまでも「治療」ではない。
ここが重要なポイントである。

治療であれば、それは患者の「個人的利益」に直結する。
勿論、治療には相応のリスクが付きものだが、
患者自身は、そのリスクと自身の利益とを天秤にかけて、
治療をするか否かの意思決定をすることができる。

ところが、研究というのは、被験者にとっては、
何ら「個人的利益」に直結するようなものではない。
つまり、被験者は、全面的にリスク「だけ」を負うことになるのだ。

だからこそ、十分なインフォームド・コンセントが大切なのであり、被験者の
負担は「最小」であることが担保されねばならない。
そして、万が一の重大事故が発生した場合には、補償措置を講じるべきである
し、万が一にも個人情報が漏れないような保護体制が敷かれているべきことと
なる。

特に、被験者が患者である場合は、研究に協力しないと治療に影響するのでは
ないか?といった懸念が生じかねず、その「同意の任意性」は大問題だ。
また、被験者が学生だったり、研究者の部下だったりする場合も、その「同意
の任意性」は問題となる。

このあたり、法律家としての「人権感覚」や「法的思考力」がフルに活用でき
る分野でもある。

私は、平成15年(2003年)から、三重大学の倫理審査委員会に所属させ
て頂いている。もう13年にもなる。

いくつかの委員会を掛け持ちしており、月に2回程度、三重大学に通っている
次第だが、毎回、新たな発見もあり、私自身にとっても、非常に勉強になる委
員会である。

お陰様で、三重大附属病院の倫理審査委員会は、「15/1400」という
「上位1%」の「高い質」
について「お墨付き」を頂いたワケだ。

私自身も、益々、気合いを入れて、
法律家としての「人権感覚」や「法的思考力」
をドンドン磨きつつ、同委員会のさらなる質の向上に貢献したいもんだね。