沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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125)職業選択の不自由

 娘も中3になり、自分の将来の方向性について、ちょこっとは関心が出てき
たようだ。
 以前は、自分は理系科目が苦手だからという理由で、文系の進路しか頭にな
かったようだが、最近になって、理系も「ありかな~」なんて言い出すように
なった。

 学校でどういう影響を受けたのかは分からんが、自分の可能性を広く捉える
こと自体は、とっても良いことだ。

 娘が通う中学は、中高一貫教育の進学校。
 そのせいか、やたらと医者(医師・歯科医師)の子女が多い。
 娘いわくは、「クラスの3分の1以上かも」だそうだ。

 で、当然ながら、その子たちは、親から「後を継いで欲しい!」と言われて
いるそうな。

 今の日本にあって、医者という職業はホントに特別だ。

 開業医の場合、その投下した資本のケタが違うので、自分の代で医院を閉鎖
するワケにはいかない。
 もちろん、地域社会にとっても大変な損失だ。
 だから、自分の子に後を継いでもらいたいと思うのは、ごく当然のこと。

 だけど、もしも、その子が医者とは違う道を歩みたい!と思ったとき、どう
なっちゃうんだろう?

 親も、子の意思を無視してまで、強引に、何が何でも「後を継げ!」とは迫
らないのかも知れないが、子も、親の心情を十分察しているだろうし、言葉に
ならないプレッシャーに耐えかねて、泣く泣く親の後を継ぐなんていうことに
なるんじゃなかろうか?

 いやいや、現実には、もっとあからさまに、「あなたを医者にする為に、こ
の学校に入れたんだから、部活も禁止!!」なんていう親もいるって聞くしね
え~。

 そう考えると、医者の子として生まれたことは、世間一般の評価では、とっ
ても「ラッキー!」なことで、羨望の的になるようなことなのかも知れない
が、例えば、お笑い芸人になりたいと本気で思っている子にとっては、とって
も不幸なことなのかも。

 まさに、医者の子たちにとっては、「医者にならない」という選択肢自体が
制限されている点で、憲法で保障されているはずの「職業選択の自由」が無い
っていうことなのかねえ。

 逆に、一般人の子が医者になることだって簡単ではない。

 まず、私立大学医学部・歯学部への進学は、最初っから、一般庶民の選択肢
にすら入らない。

 その学費の高さは、一般庶民の家計が優に破綻するレベルだ。

 最も安いと言われる慶応の医学部で、学費(6年間)は2000万円超!
 最も高いところでは、5000万円超(!!)にも及ぶ。

 最近、娘が「理系もありかな~」なんて言い出すもんだから、「もしも、医
者を目指したくなったら全力で応援するけど、私立はムリだぞ……。」と今か
らクギを刺しておいた(笑)。

 まあ、そりゃそうだ。
 現実問題として、万が一、上の子が私立大の医学部に行って、下の子が家計
破綻で医者になる道を断念……、なんていう話は冗談にもならない。
 だから、我が家では、医者になりたけりゃ、どんだけ浪人してでも国公立大
の医学部を目指してもらうしか選択肢はない。

 で、当然ながら、国公立大の医学部は、全国のエリート達が目指す狭き門で
あり、そう簡単に合格できるはずもない。

 昔、私の高校の同級生で、恐ろしく数学ができるヤツがいたのだが、その彼
が、京大の理系学部にラクラク合格したのに、三重大の医学部には落ちてしま
ったという話を聞いたとき、医学部はホントに「別格」だと痛感した。

 国公立大の医学部は、最も偏差値が低いとされる大学で、偏差値63を超え
ている。
 つまり、全国で上位9%以内には入っていないとダメというレベル。
 そうなると、普通の学校ではダントツの成績だよねえ。

 最近では、富裕層でなければ、子を東大に合格させるのも難しいなんて言わ
れている。
 あるデータでは、東大生の親の半数が年収1000万円以上とのこと。

 結局、高3(18歳)の時点で全国トップレベルの学力を身に付けさせるに
は、小学校くらいから教育に投資しないとダメっていうことだ。

 ましてや、国公立大の医学部ともなると、「我が子を絶対に医者に!」なん
ていう親も多いだろうから、投資する教育費は、東大以上だろう。

 ということで、ここでもカネの話でつまづいてしまうワケ。
 やっぱり、一般庶民の子が医者になることは簡単ではないんだよね。

 医者という職業は、医者の子が「医者にならない自由」も制限され、一般の
子が「医者になる自由」も制限され、まさに、現代社会に残る数少ない「世襲
制」の職業なのかも知れない。

 私の親戚に伊達藩から代々続く医者の家系があるが、それなんか典型だ。

 医学部というのは、中には学者になる人もいるが、基本的には医者になるこ
とが予定された人達だけの集団。

 他学部と比較すれば、ホントに特殊な世界だ。
 法学部に進学したからって、弁護士になるワケではないからね。

 そう考えると、医学部と法科大学院(ロースクール)が似たような位置づけ
なんだろうかね。

 だけど、大学を卒業した者や社会経験を積んできた者が対象のロースクール
と高校を卒業したばかりの者が対象の医学部では、やっぱり違う。
 高3(18歳)という何の社会経験も無い時点で、人生の一大選択を迫られ
る医者という職業、やっぱり特別だ。

 ところで、医学部とロースクールが同等の位置づけだとすると、研修医と司
法修習生が同等の位置づけとなるはずだ。

 でも、今の司法修習生の中で、研修医たる自覚を持っている人、意外に少な
いよねえ。
 確かに、研修医というのは、医師免許を持ち、給与も貰っているけど、私が
言いたいのは、そういう制度論ではなく、「実務家の卵」としての意識。

 医学部生やロースクール生は、教育というサービスを受ける消費者なので、
学校側から見れば、あくまでも「お客様」だ。

 だが、研修医や司法修習生は、医療やリーガルサービスを提供する実務家の
卵であり、指導してくれる先輩達と「同志」である。

 立場が180度も入れ替わっているのに、まだまだ「学生」のごとくサービ
スを受ける立場だと誤解している者が多いんだよねえ。

 まあ、愚痴っぽくなるんで、もうやめとくが、競争が全く無かった時代より
も、競争が激しくなった今の時代の方が、司法修習生の「士気」が下がって
いる(気がする)のは、なんとも皮肉な話だ。