沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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33)ぼったくりBAR

 久しぶりに東京に行ったら、新宿の歌舞伎町でぼったくられた…、という話ではない。
 BARはBARでも、飲み屋ではなくて弁護士のことである。BARという英語には、酒場という意味のほかに、弁護士という意味もあるので。
 ちなみに、日本弁護士連合会=Japan Federation of Bar Associations、司法試験=Bar Examなどという使われ方をする。

 さて、昨日の新聞報道によれば、お隣の愛知県弁護士会の某弁護士が、「報酬の取り過ぎ」ということで懲戒処分(業務停止4ヶ月)を受けたそうだ。
 その弁護士は、刑事弁護を受任するにあたり、被告人の父親に対し、「報酬は1時間5万円。100時間以内には終了する。」と告げて、委任契約を締結したらしい。だが、実際は、当初の見込みよりも大幅に時間が超過してしまい、事件処理に400時間以上を要したとして、合計で2200万円弱の報酬を請求し、現実に受領したという。

 愛知県弁護士会では、事件処理の内容に鑑みて、せいぜい300万円が適正な報酬であると認定して、懲戒処分に付したそうだ。だが、この弁護士、懲戒処分には従うとしながら、経済的事情を理由に、返金には応じていないとのこと。
 しかも、以前にも「報酬の取り過ぎ」で業務停止1ヶ月の懲戒処分を受けたことがあるというではないか。
 まさに、正真正銘の「ぼったくりBAR」(弁護士)である!!

 それにしても、1時間5万円というのは、大企業相手の企業法務なみの単価である。
 冤罪を晴らすための再審事件というならまだしも、聞けば普通のありふれた刑事事件である。一審が実刑、二審が執行猶予付きの有罪判決(確定)とのことで、それなりの刑事弁護の成果はあったと言えるが、私なら、適正な報酬額とされた300万円だって、とてもとても請求しないなあ…。

  弁護士報酬は、従来は日弁連の統一基準があったのだが、2003年に自由化されて以来、今では、個々の法律事務所で、自由に弁護士報酬が決められている。
 1時間当たりいくらという決め方は、タイムチャージ制と呼ばれ、企業法務などではよく利用される算定方法である。
 だが、まだまだ一般的ではなく、多くの法律事務所は、着手金+成功報酬という算定方法を採用しているはずだ。

 着手金というのは、言ってみれば、「手間賃」である。
 弁護士の職務は、基本的に、弁護士自身が法的戦略を考え、書面を作り、そして法廷へ赴いて処理せざるを得ないので、年間に処理できる事務量には、どうしても一定の限界が生じる。
 従って、事件を受任することによって、有限の時間が一定程度割かれてしまうことは不可避なので、着手金というのは、弁護士にとってみれば、割かれてしまう「時間の対価」ということになろう。

 一方、成功報酬というのは全く異質で、言ってみれば、「ボーナス」である。
 成功しなければ、報酬はゼロであるし、依頼者が多くの経済的利益をゲットすれば、それだけ報酬は高くなる仕組みなのだ。つまり、成功報酬は、成功して依頼者が得た「利益の分配」ということだ。

 当事務所では、この着手金と成功報酬をキッチリ区別し、「安心して」ご依頼頂くべく、分かり易い料金設定をしているつもりである。
 着手金は、最低限度の手間賃ということで、できる限り「低額」かつ「定額」に設定している。
 ただ、着手金が「手間賃」であるならば、請求額によって変動するのはおかしいとの指摘も聞こえてきそうだが、請求額が高くなればなるほど、相手方の抵抗も自ずと激しくなり、当方の戦略も一層深めざるを得ないので、結果的に、事務処理に多くの時間を要する蓋然性が高くなるという経験則に基づいている。この点、ご理解を頂きたいところだ。

 ちなみに、今回の案件を当事務所の報酬基準で受任していれば、標準額どおりということなら90万円、相当難解な事案だったと仮定しても、せいぜい150万円程度で収まっていたはずだ。文字通り「ケタ違い」の「ぼったくりぶり」がお分かり頂けるだろう。

 この手のぼったくりBARの話は、たまに耳にするところだ。無論、三重県でも聞かないことはない。
 自然に耳に入ってくるということは、あまりにも衝撃的な金額ゆえ、ついつい噂になってしまうのだろうが、毎回、「エ~~!!」と思わず叫んでしまう金額である。感覚的には、ケタが2つ違う気がする。
 
 今回の依頼者も、事件が進行している間は、おかしいと思っていても、なかなか言い出せなかったのであろう。
 刑事事件というデリケートな分野であれば、なおのことである。おそらく、依頼するときには、精神的に相当追い込まれていたはずなので、冷静に判断することすらできなかったのだろうし…。

 いろいろな意味で、今回のケースは極めて悪質である。特に、この弁護士自身は2回目の懲戒処分ということでもあるので、潔く弁護士バッジをはずすべきではなかろうか。あっ、でも、取り過ぎた報酬を返すには、廃業してしまったらダメか…。