沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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211)労務調査士

何じゃそれ?
という感じだろうが、まあ、それもそのはず。

この資格、「日本経営税務法務研究会」という会社が認定する民間資格。
しかも、先月に「第1期」の認定資格者が誕生したばかりの超ホヤホヤ資格な
のである。
従って、知名度は「ほぼゼロ」と言ってよい。

で、この度、その第1期「労務調査士」に私も認定された。

と言っても、特別な試験は無いので、受験勉強も不要。
40時間弱のネット講義を受講後、丸一日の会場受講を経るのみ。
まあ、座学が苦痛じゃなければ、簡単にゲットできる資格である。

ただ、弁護士や社労士などの「士業」向けの資格なので、誰でも認定される訳
ではなさそうだが。

そして、先月下旬、会場受講のため東京に赴いた。
年度末ということもあり、本当にバタバタで忙殺される中、何とか泊まりがけ
で行ってきた次第。

何だか、あやしい資格商法に騙されてんじゃねえの?
とも思われるであろうが、会社の代表は、業界では著名な弁護士であり、
講義の内容も相当充実しているので、シッカリ実益のある資格だ。

詐欺だと騒がれた「労務管理士」なる資格とは、ちょいと違う(笑)。

さて、何故、私がこの資格に目を付けたかと言えば、
中小企業にとっての「労務」の大切さを日々痛感しているからだ。

中小企業経営者の悩みは、「カネ」か「ヒト」である。

金を稼げば、必ず、税金が発生する。
人が働けば、必ず、賃金が発生する。

故に、経営には、必ず「税務」と「労務」が付きまとう。

だが、経営者としては、
「カネ」は、たくさん稼いでも、税金は抑えたい。
「ヒト」は、たくさん働かせても、賃金は抑えたい。
ということなんだよね。

ただ、税務については、税務署が目を光らせているし、
労務については、労働基準監督署が目を光らせている。

税務署による「税務調査」は有名だが、勿論、
労基署による「労務調査」(臨検監督という)もある。

いずれも、摘発されれば、タダでは済まない。

で、日本経営税務法務研究会では、
税務署による税務調査が実施される前に「予防診断」をする資格として、
「税務調査士」という資格を創設し、
全く同様の趣旨で、
労基署による労務調査が実施される前に「予防診断」をする資格として、
「労務調査士」という資格を創設したというワケ。

まあ、資格のネーミングとしては、
「労務診断士」とか「労務監査士」の方がピタッとくるけどね。

それはそれとして、
この着眼点は大変素晴らしいと思うし、法務全般について、
「治療から予防へ」
という私の目指す方向性とも完全に一致する。

中小企業法務というのは、大きく分ければ、
「契約法務」と「コンプライアンス法務」
の2つに分類できる。

契約法務というのは、契約内容のチェック。
基本的に、どんな契約を結ぶかは自由である。
だが、一旦、契約を結んでしまえば、その内容に拘束される。
だからこそ、契約内容が極めて大事となる。
当然、より有利な内容を結ぶべしということになる。
それをアドバイスするのが、契約法務だ。

コンプライアンス法務というのは、企業活動や組織体制が法令等に違反してい
ないか否かのチェック。
企業を取り巻くルールを知らないと、思わぬことで企業の死活問題にまで発展
するようなトラブルに見舞われることになる。
契約問題と違い、経営者が「自覚しない」ので、リスクも高い。
そうならないようにアドバイスするのが、コンプライアンス法務だ。

中小企業の場合、
「正社員を解雇したい」
「契約社員の契約更新をしたくない」
「未払残業代を請求された」
「労災で賠償請求された」
「パワハラ・セクハラで賠償請求された」
といった相談が多い。

前二者が契約法務の問題で、
後三者がコンプライアンス法務の問題。

もっとも、労働法分野では、
「契約自由の原則」も「過失責任の原則」も
大きく修正されているので、なかなか難題なんだけどね。

中小企業の場合、特に強く感じるのは、
労働時間管理が極めて杜撰だということ。

労務の要は、労働時間管理にあり!
とも言えるくらい、これは極めて重要な問題だ。

未払残業代は、多数の従業員から一気に請求されたら、企業の死活問題にまで
発展しかねない莫大な金額となる。

また、過労死ラインを無視して働かせて、本当に過労死したら、
莫大な賠償金を支払う必要が生じる。

そして、何よりも、短時間で効率よく労働してもらうことこそ、
企業の活性化、ひいては、企業の利益に大きく貢献する。

人は、機械と違い、必ず「疲れる」。
「能力」や「やる気」にも「ムラ」が生じる。

だからこそ、十分な「休息」が必要だ。

つい先日(4月12日)も、長時間労働に関する判決が出された。
世界遺産の「仁和寺」の食堂で働いていた元料理長の男性(58)が、
長時間労働で「精神疾患」を発症し、慰謝料を含めて約4700万円を求め、
京都地裁は、仁和寺に約4200万円の支払いを命じるに至った。

判決によれば、1か月の時間外労働は、何と最長約240時間(!)に及び、
驚くべきことに、349日もの連続勤務(!)もあったという。
裁判長は、「尋常ではない過酷な業務だった」と言及した。当たり前だ。

もはや、「過労死ライン」など遙かに超える異常事態としか言いようがない。

過労死ラインというのは、
「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」
と題する厚生労働省労働基準局長通達による基準のこと。

同基準を簡略化して表現すると、
1)1月平均45時間超×2月以上の時間外労働=要注意
2)1月平均80時間超×2月以上の時間外労働=危険!
3)1月100時間超の時間外労働=即アウト!
といった感じ。

実は、この過労死ラインも「休息」を考慮している。
人間、もっとも大切な休息は、ズバリ「睡眠」である。

通勤や食事等の日常生活を考慮に入れた場合、
1日に確保できる睡眠時間は、
1)1月45時間の時間外労働だと「8時間」
2)1月80時間の時間外労働だと「6時間」
3)1月100時間の時間外労働だと「5時間」
と言われている。

つまり、人間というのは、
1日6時間の睡眠が確保できない日が長く続けば、
アッという間に「過労死」まっしぐらということ。

人間というのは、かくも弱き生物なのだ。
経営者は、そんな弱き生物に対する十分な配慮が必要不可欠。

昨今、「ブラック企業」という言葉をよく耳にするが、
過労死というのは、最も罪深い「企業犯罪」だね。
もちろん、そんな経営者は、経営を語る資格すらなかろう。

そう言えば、以前、
残業代未払いで事務員から訴えられた弁護士がいたっけ。

残業代未払いは、あまりにも酷いが、
有給休暇がなかなか取れない……、
なんていう法律事務所職員の話は、よく耳にするところ。

近年、新人弁護士の就職難をいいことに、
「ブラック事務所」とされる法律事務所も急増している。
新人弁護士の1年以内の退所率が急増しているのも、
こんなところに理由があると思えてならない。

まあ、そう考えると、
当事務所は、「パラダイス」ですな(笑)。