沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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206)BtoC戦略の難しさ

本年2月16日、消費者庁は、CM広告でお馴染みの「弁護士法人アディーレ法律事務所」に対し、景品表示法違反(有利誤認表示)で行政処分(措置命令)を下した。

消費者庁によれば、アディーレは、過払金返還請求について、通常は4万円の着手金を「無料」にするという「1か月の期間限定キャンペーン」を、5年近くにもわたってホームページ上に掲載し続けたのだという。

まあ、巷の商売ではありがちな話なのかも知れないが、消費者の味方を標榜するアディーレが、消費者に対する有害行為を指摘されて、消費者の味方である消費者庁から行政処分を受けてしまったワケ。
まさに、アディーレにとっては、これ以上ない「大失態」と言える。

法律事務所が行政処分を受けるなんていうのは、おそらくは戦後初。
通常は、この手の話は、弁護士会がキチンと懲戒処分を下すからね。
その意味でも、行政庁に処分を先んじられてしまった弁護士会も「大失態」だねえ。

ところで、BtoC戦略をとる場合、常に「新規顧客」を獲得し続けていく必要がある。
消費者が、法律事務所の「リピート顧客」になることは期待できないからだ。
従って、常に広告による情報発信をし続けていくことが必要不可欠となる。

アディーレくらいの規模になれば、固定費も桁違いだろう。
当然、それを賄うだけの桁違いの売上が必要になる。
そして、その売上は、常に「新規顧客」の獲得に依存せねばならない。

今回の件は、そんなビジネス背景が招いた大失態だったに違いない。

以下は、日本の10大法律事務所だ(2015年4月時点)。
なお、(  )内が所属弁護士数(外国法事務弁護士含む)。

1 西村あさひ法律事務所(502人)
2 アンダーソン・毛利・友常法律事務所(363人)
3 森・濱田松本法律事務所(350人)
4 TMI総合法律事務所(345人)
5 長島・大野・常松法律事務所(323人)
6 弁護士法人アディーレ法律事務所(144人)
7 シティユーワ法律事務所(129人)
8 ベーカー&マッケンジー法律事務所外国法共同事業(123人)
9 弁護士法人大江橋法律事務所(122人)
10 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業(93人)

すべて東京の事務所だが、アディーレ以外は、BtoB戦略をとっているので、顧客は企業である。
よって、消費者向けの広告はしていないから、アディーレ以外の事務所は、ほとんどの人が知らないはず。

その意味でも、アディーレは日本で一番有名な法律事務所なんだろうから、今回の件は、消費者に与えるインパクトはホントに絶大だろうね。
そういえば、私の娘も、クラスメートから「お父さんって、どこの事務所なん?アディーレ?」なんて聞かれたことがあるそうだし(笑)。
まあ、事務所名がカタカナという点では、遠くはないが(笑)。

いずれにしても、アディーレの広告戦略は群を抜いて大成功している。
でも、そこに投じた広告費も、これまた桁違いだ。
普通の零細事務所がマネなんかできるはずもない。

零細事務所が生き残るカギは、如何にしてBtoBを経営の柱にできるか、だ。
もちろん、BtoC戦略を併用するにしても、BtoBだけで経営が回るようにせねばならない。

弁護士業の場合、税理士や社労士とは違い、キャッシュ・ポイントが「スポット」である。
つまり、最初(着手金)と最後(成功報酬)にしか、収入が発生しない。 

事案を全く受任しない月があれば、月の売上ゼロの危険すらある。
もちろん、顧問契約による固定収入があれば、話は別だが。

単純化して、着手金が10万円、成功報酬が20万円とすると、
月に1件の受任では、年収は300万円程度。
これでは、経営は成り立たない。

まあ、事務所を構えるのか、事務員を雇用するのか、で固定費は大きく変わるが、
毎月、必ず3件程度は、新規案件を受任し続けないと、なかなか厳しいだろうね。

弁護士などの士業の広告が原則自由になったのは、2000年10月のこと。
以来、BtoC戦略をとる限り、広告の巧拙によって、勝ち組・負け組に分かれることとなった。
結局、資金が潤沢な事務所ほど広告戦略では圧倒的優位に立つ。

ありがたいことに、当事務所は、BtoB案件だけで手一杯の状態。
BtoBの場合、何しろ「継続的なお付き合い」が前提となるので、経営は安定しやすい。

独立したての場合、なかなかBtoBもスムーズにはいかないだろうが、3年の辛抱だと思って、
じっくりと「種まき」に専念すべし、ということ。

で、結論。
広告なんかに投資するくらいなら、「人付き合い」にこそ投資すべし、だ。