沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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196)司法界の「天下り」

10月1日、当地(三重県津市)における実務修習を終了した68期司法修習
生の送別会が開催された。
私も、司法修習委員会委員長として、また、弁護実務の指導担当弁護士という
立場で出席した。

司法修習生たちは、各地での実務修習(裁判修習・検察修習・弁護修習)を終
えると、司法研修所に戻って座学・演習で頭をブラッシュ・アップし、、最後
の最後に「司法修習生考試」という国家試験を受け、これに合格して初めて
「法曹」資格を得ることになる。

司法試験という国家試験に苦労して受かったのに、またまた国家試験を受ける
のかよ~!という嘆きの意味も込めて「二回試験」と呼ばれる。

この二回試験は、民事裁判・刑事裁判・検察・民事弁護・刑事弁護の5科目に
ついて、1日1科目×5日間に渡って実施される。

私どもの頃は、二回試験に「落ちる」ということは異例中の異例で、たとえ落
ちても、その後の追試で「ほぼ」全員が救済されていたので、弁護士志望の者
にとっては、単なるセレモニーという感覚に近かった。
まあ、裁判官や検察官に任官する者にとっては、成績如何によって、その後の
出世にも響くそうなので、彼らは必死だったはずだが。
ということで、二回試験の直前期に遊んでいる者がいれば、それは、まず間違
いなく弁護士志望の輩だったというワケ。

ところが、ロースクール時代になってからの二回試験は、一気に「落ちるかも
知れない試験」に様変わりしてしまった。
例年、数パーセントないし10パーセント近い者が、落ちるようだ。
そして、これも私どもの頃とは違い、すぐに追試が受けられるのではなく、次
年度において再チャレンジということになってしまうのだ。

これは非常にツライ!
まさに、二回試験を受けるためだけに「浪人」をするワケだからね。

かくして、送別会とは言っても、解放感に浸るという雰囲気ではなく、司法修
習生たちの顔には「一抹の不安」がどうしても滲み出てしまうのだ。
ややビミョ~な雰囲気なんだよねえ。

とまあ、そういう感じの司法修習生たちとは対照的に、この席上で、晴れやか
なるサプライズ発表があった。

津地検の検事正が、何と、その日を以て「退官」されるというのだ。
だが、まだまだ検事の定年(63歳)という年齢ではない。

だったら何?ということなのだが、検事を退官して、「公証人」に就任される
のだそうだ。

おそらくは、「???」という感じだろうから、簡単に説明を。

まず、「検事正」というのは、全国の都道府県に所在する「地方検察庁」の
トップである。
ちなみに、全国に8つある高等検察庁のトップが「検事長」で、最高検察庁の
トップが「検事総長」となる。

裁判官・検察官・弁護士を「法曹三者」と呼ぶが、各都道府県レベルでの法曹
三者のトップが、地方裁判所所長・検事正・弁護士会会長ということ。

選挙で選出される弁護士会会長と違い、キャリアの階段を1歩1歩上っていく
官僚の世界では、検事正や地裁所長となるのは、だいたい任官してから30年
前後の頃だ。

加えて、検事正や地裁所長というのは、官僚としての出世としては、まだ上を
目指す「ほんの一握り」の人達を除けば、普通は「終着駅」と考えてよい。

おそらく、このあたりで、自らのキャリアを「振り返る」のであろう。
で、セカンド・キャリア候補として浮上するのが「公証人」というワケ。

公証人というのは、「ある事実の存在や契約等の法律行為の適法性等につい
て、公権力を根拠に証明・認証する者」のことで、日本では、法務大臣が任命
する公務員という扱いである。
公証役場で「公正証書」を作る人と言えば、分かり易いだろうか。

ただ、公証人への道は、非常に「狭き門」である。

公証人になる資格は、司法試験合格後、司法修習生を経て、30年以上の実務
経験を有する裁判官(簡易裁判所判事は除く)、検察官(副検事は除く)、弁
護士、法務局長経験者等に限られている。

一般の人は、いくら優秀でも、この段階でダメということだ。
ちなみに、公証人法では、公証人試験の合格者が公証人となる仕組みが規定さ
れているが、公証人試験は1回も実施されたことがなく、法曹資格者からの任
命が定着している。

なお、弁護士出身者は限りなく「ゼロ」であり、ほぼ全員が裁判官・検察官・
法務局OBで占められている状況という。

また、公証人の定年は70歳である。
誰かの定年によって公証人のポストに「空き」が出ない限り、公証人に就任す
るチャンスは到来しないのだが、そのポスト自体が、全国で500程度しかな
いので、これまた激戦なのだそうだ。

ところで、公証人という職業の面白いところは、公務員なのに、国からは一切
給料を貰わないという点。
何と、依頼者が公証人に対して支払う「公証人手数料」のみを収入として、独
立採算制で公証役場を運営していくという仕組みなんだね。
まあ、個人事業者に近いイメージだ。

公正証書作成の手数料は、ざっとこんな感じ。

目的物の価額が100万円まで=5000円
200万円まで=7000円
500万円まで=1万1000円
1000万円まで=1万7000円
3000万円まで=2万3000円
5000万円まで=2万9000円
1億円まで=4万3000円

ん?そんなに高くないもんだねえ~、なんて思うかも知れないが、これがどう
してどうして、塵も積もれば山となるのだ。
大都市の公証役場なんかでは、年収が数千万円なんていう公証人は決して珍し
くないらしい。

ということで、検察官・裁判官を退官して公証人になるという道は、なかなか
オイシイ選択なのであり、ポストが空くのを待っている検察官・裁判官は非常
に多いとも聞く。

公証人になる資格が、30年以上の実務経験を有する裁判官・検察官。
検事正や地裁所長となるのが、任官してから30年前後の頃。
そして、検事正や地裁所長は、出世の終着駅。

まあ、そういうことなのだ。
公証人は、司法界の「天下り」ルートということなんだね。

そして、公証人は70歳までバリバリ働ける。
定年後は、たっぷりある共済年金を受給し、弁護士となって、サード・キャリ
アを積みながら、悠々自適に余生を過ごす、というライフ・プラン。

う~む、「法曹資格=永久ライセンス」ということを実感するねえ。

公証人定員規則では、本来、公証人の定員は670名超とされているところ、
現実には、500名程度の公証人しか存在しないと言われる。

これも、競争激化による公証人の収入減少を回避する政策的配慮なのかも知れ
ないねえ~。
我々、弁護士業界にも、こういう配慮が欲しいとこなんだけど……。

何だか、悪口を言っているように聞こえるかも知れないが、
私は、公証人の仕事は、非常に「価値の高い仕事」だと思っている。
何故なら、これこそ「予防法務」の典型だからだ。
しかも、国家権力のお墨付きという「安心感」は、民間では絶対に太刀打ちで
きない絶大なものだしね。

本ブログでも、何度も言い続けているが、
ホントは、紛争が発生してから解決するよりも、
紛争が発生しないように予防することの方が、
ずっとずっと価値が高いのだ。

今回退官された検事正は、私の会長時代、非常に親しくさせて頂いた間柄なの
で、送別会の席上でも、楽しく懇談させて頂いた。

その中で、検事正から、
「刑事と民事、紛争解決と紛争予防、まるで逆だけど、やりがいがある。」
という趣旨のお言葉があった。

さすが、分かっていらっしゃる!!と敬服した次第。

司法は、紛争解決を目的とする国家作用だが、
公証は、紛争予防を目的とする国家作用だ。

そして、弁護士は、
紛争解決だけでなく、紛争予防にも手を広げられる「自由」な仕事。

その意味では、司法と公証の「いいとこ取り」ができるのが弁護士なのだ。
これこそ、私が目指している弁護士像でもあるしね。

なんてことを考えていると、俄然、やる気が湧いてきた感じっす!