沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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170)弁護士=貧困業界?

国税庁のホームページ上にて、
平成25年の「民間給与実態統計調査結果」と「統計年報(申告所得税)」が
公開された。

公開されている「民間給与実態統計調査結果」によれば、我が国の給与所得者
(=4645万人)の年収分布は、次のとおり。

給与収入     累 計
100万円以下   9%
200万円以下  24%
300万円以下  41%
400万円以下  58%
500万円以下  72%
600万円以下  82%
700万円以下  88%
800万円以下  92%
900万円以下  94%
1000万円超   4%
1500万円超   1%

いわゆる「夢の1000万円プレーヤー」と言われる人達は、全体の4%に過
ぎない一方、300万円以下の年収の人達が、その10倍の40%超を占める
という結果だ。
まあ、こんな感じだろうというご感想だろうか。

では、我が弁護士業界はどうであろう。

今回公開された「統計年報(申告所得税)」によれば、「弁護士」として確定
申告した全ての人達の事業所得(収入~経費)の分布は、次のとおり。

事業所得     累 計
赤字での申告   21%(7426人)
100万円以下  35%
200万円以下  39%
300万円以下  43%
400万円以下  49%
500万円以下  54%
600万円以下  60%
700万円以下  64%
800万円以下  68%
1000万円超  25%
1500万円超  16%

えっ!という感じだろうか。
弁護士の方が、一般の給与所得者よりも、300万円以下の所得層が「多い」
という結果だ。

もちろん、給与収入と事業所得を単純比較することは困難だけどね。

給与所得者も自腹で一部の職業費を支出することは多々ある。
よって、その分、やや割り引いて考える必要がある。
一方、事業所得者の経費には一部の家計費が含まれることが多々ある。
よって、その分、やや割り増して考える必要がある。
ということなんでね。

でも、もっと留意しなければならない点は、弁護士の場合、毎年の所得として
は、事業所得だけではなく、給与所得・不動産所得・雑所得などの所得もあり
得るということ。

特に、法律事務所や弁護士法人で給与を貰う勤務弁護士・社員弁護士等は、給
与所得の方が多いのが普通で、自身の事業所得申告は、言ってみれば「節税目
的」であることが多い。
例えば、事業所得を赤字で申告すれば、給与所得との損益通算で、源泉徴収さ
れた税金が「還付」されてくるという仕組みだ。
従って、上記の赤字申告の大半は、勤務弁護士による申告であろうと推察され
るので、上記統計をそのまま受け止めるワケにいかない。

どうしたものかと案じていると、この統計には、ご親切にも「主たるもの」と
「従たるもの」という区分が付されていた。
ここでいう「主たるもの」というのは、その所得が、他の所得に比べて「最も
高額」であるという意味だそうだ。
つまり、事業所得のうち、この「主たるもの」だけを拾っていけば、事業所得
よりも給与所得などの方が多い人達を除外できるワケで、より弁護士業界の実
態に近づけるはず。

で、弁護士の事業所得(申告所得)において、「主たるもの(=最も高額)」
だけ(2万3880人)を拾った統計結果は、次のとおり。
なお、赤字申告は主従の区別が無かったので除外した。

事業所得     累 計
100万円以下  20%
200万円以下  26%
300万円以下  31%
400万円以下  38%
500万円以下  44%
600万円以下  50%
700万円以下  55%
800万円以下  60%
1000万円超  33%
1500万円超  20%

う~む……。
それでも、3人に1人が300万円以下の所得だし、100万円以下の所得が
5人に1人なんだねえ……。

この人達は、事業所得の他には、より高額な所得が無い人達だ。
さすがに、所得が100万円以下だと、生活自体が成り立たないのでは。

もちろん、配偶者の所得と合算すれば生計が十分維持できるということもあり
得るだろうが、何しろ、5人に1人という割合だから、独身の人も多数いるに
違いない。

これが実態ならば、まさに「食えない」という深刻な事態だ。

一方で、1500万円超の高額所得者は、一般の給与所得者の20倍もの高割
合で存在し、5人に1人もいる。1000万円超だって3人に1人だ。

相変わらずガンガン稼ぐ人達と、ホントに食えない人達……。

弁護士業界は、昨今の弁護士人口急増政策により、いわゆる「貧富の格差」が
激烈に生じている苛酷な社会と言えよう。

ある社会の貧困率(所得格差)を表す指標として、「相対的貧困率」というも
のがある。

世帯所得の「中央値」の「半分」の値を「貧困線」と呼び、貧困線に満たない
世帯の割合を「相対的貧困率」と呼ぶ。

ちなみに、中央値というのは、ちょうど「真ん中」にいる人のデータで、要す
るに、下からちょうど50%の人の値だ。
また、ここでの所得は、世帯ごとの「等価可処分所得」といって、世帯人数を
考慮した修正値だが、弁護士業界には、世帯に関するデータは無いので、単純
に申告所得だけで考える。

今年7月に厚労省がまとめた「国民生活基礎調査」によれば、我が国の相対的
貧困率は「16%」(*)となり、「過去最悪を更新」したそうだ。

(*)我が国の貧困線=122万円とのこと。

この貧困率は、OECD加盟国(34ヶ国)の中で「ワースト4」ということ
で、政府もヤバイ!!と焦っている状況。

ところが、弁護士の所得分布において下から50%に該当するのは600万円
という所得。
その半分の300万円以下の人達の割合は、なんと「31%」!!

つまり、我が弁護士業界の相対的貧困率(31%)は、過去最悪とされる我が
国の相対的貧困率(16%)の2倍!!ということだ。

我が国も、至るところで「格差社会は、けしからん!」と非難されている現状
だが、弁護士業界は、そのはるか上をいく、恐ろしいほどの「超格差社会」な
のである。

現在の弁護士人口は3万5000人。
将来的には、今の2倍の7万人!!に達する見込み。

そうなれば、弁護士業界は、「超々格差社会」となることは必至だね。

何度も言うけど、ある程度の「財布の余裕」がないと、「人権」だの「正義」
だのというキレイ事は言えないんだよねえ。悲しいかな。

まさに、「恒産なくして恒心なし」(*)なのだ。

(*)孟子の言葉で、「安定した職業や財産を持たなければ、しっかりとした
道義心や良識を持つことはできない」という意味。

これから、我が業界に入ってくる人達には、その「柔らかい頭」で、弁護士が
ドンドン活躍できるフィールドを開拓していってもらいたいものだね。