沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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166)過払金の架空請求?

2ヵ月ほど前になるが、ネットサーフィンをしていたら、とんでもないニュー
ス記事に遭遇した。
西日本新聞経済電子版の8月19日配信分だ。

記事のタイトルは「返還過払い金、弁護士らの着服横行か」というもの。

まあ、この手の話は以前から随分と問題視されていたことなので、「またかい
な……。」などと思いつつ、記事をクリックしてみると、思わず、「えっ?」
と唸ってしまった内容が書かれていた。

記事によれば、「借金をした人が貸金業者に払いすぎた利息を取り戻す『過払
い金返還請求』をめぐり、過払い金が返還されたにもかかわらず、弁護士や司
法書士が依頼者に渡しておらず、着服が疑われるケースが2012年以降、九
州など全国で少なくとも45件(計約1700万円分)あったことが、大手消
費者金融会社の調査で分かった。中には、依頼を受けていない人の過払い金を
勝手に請求したケースもあった。」というのだ。

えっ?「依頼を受けていない」ってどういうこと?
思わず、我が目を疑ってしまった。
と言うか、正直、その意味すらよく分からなかった。

依頼を受けていないのに請求する??
まるで、過払金の架空請求ではないか!?

でも、どうやって、そんなことができんの?と思いながら、さらに記事を読み
進めると、

その記事では、「廃業した貸金業者などから流出した名簿を利用し、無断で過
払い金を請求しているのではないか」との説明がなされていた。

う~む。
弁護士・司法書士の悪事もここまできたか!というゾッとする話だ。

本人に無断で請求できたとしても、その本人が後から請求行為をしようとすれ
ば、途端に、彼らの悪事は発覚してしまうはず。

今回は、貸金業者が自主的に調査したことで発覚したのだが、そうでなくて
も、いつかは必ずバレる話だよねえ。

当然、一旦バレてしまえば、懲戒されて、弁護士・司法書士資格が剥奪されて
しまうことは明々白々なのに、そこまでの「重大リスク」を抱え込んででも、
彼らを、こんな稚拙な犯罪行為に走らせてしまうものって、一体なんなのであ
ろうか?

どれだけ考えても、どうにも理解できない話だ。

金に困った弁護士が、目の前にある「預り金」に手をつけてしまうケースって
いうのは、昔から稀にあったこと。

まあ、その弁護士とすれば、最初は「後で、キチンと返せばいいだろう…」と
いう軽い気持ちから手を出したんだろうけど、結局、返せなくなって、ついに
は依頼者にも誤魔化すことが出来なくなり、懲戒されてしまうというパターン
なんだよね。

でも、今回の「過払金の架空請求」は、もう1歩も2歩も、犯罪の悪質度が進
行しちゃってる感じだねえ。

弁護士資格を投げ捨ててでも、どうしても手に入れたいお金って?
ホントに、よう分からん話だ。

こういう話を聞くと、必ず、思い出すのが、「パーキンソンの法則」と「ラチ
ェット効果」という経済の話。

パーキンソンの法則というのは、「支出の額は、収入の額に達するまで膨張す
る」というもの。
パーキンソンというのは人の名で、イギリスの政治学者である。

そして、ラチェット効果というのは、「可処分所得が低下しても、消費額はそ
れほど減らないこと」をいう。
ラチェットというのは、歯車などで、逆回転しないようにツメなどをかませて
おく機構のこと。

いずれも、我々の経験則に合致してるよね。

年収500万円だった人が、急に年収1000万円なんかになると、生活のあ
りとあらゆるところで、知らず知らずのうちに「プチ贅沢」をしてしまうの
で、結局、家計はち~っとも楽にならないのだ。

で、その後に年収1000万円から年収700万円に下がったりなんかする
と、今度は、ドップリ染みついた高い生活レベルを落とし切れずに、やむなく
消費者金融のお世話に……、なんていう話は世の中にゴロゴロとあるワケ。

ホントは、年収500万円でも、十分にやっていけていたのにね。

御承知のとおり、近年の弁護士・司法書士業界では、「過払金バブル」などと
呼ばれる特異な現象が出現した。

従来、貸金業者は、利息制限法の上限金利(年利15~20%)を超える高金
利(年利29.2%が一般的)で商売をしていたワケだが、平成18年(20
06年)の最高裁判決を契機に、利息制限法の上限金利を超える金利部分が、
ほぼ全て「違法・無効」とされたため、日本中の貸金業者が、「今までに取り
過ぎた違法金利を返還せねばならない」という異常事態に陥ったのだ。

この金額、実に毎年数千億円で、ピーク時である平成20年(2008年)に
は1兆円を超えたという。

この時期に、運良く(?)弁護士になった若手弁護士は、いきなり独立開業し
ても、過払金請求の案件だけで十分食べていけた。
と言うか、驚くほど「大儲け」できたといった方が正確かも知れない。

で、その「バブル」も、その名のとおり「泡」と消え去り、ふと気がついてみ
れば、「仕事がない!やばい!」と焦り始めている弁護士が増えているのもま
た事実。

今回の悪事を働いた弁護士・司法書士がどんな人物なのかは分からない。

ただ、真面目に仕事をしてきて、何らかの正当な理由で金に困っていたという
連中ではなかろう。
90年前後のバブル期同様、過払金バブルにドップリと酔いしれ、地道に仕事
をすることを完全に忘れてしまった連中に違いない。

弁護士業界について言えば、「弁護士=高額所得」などという幻想をキレイ・
サッパリと捨て去り、とにかく誠実かつ地道に仕事を続けてさえいれば、少な
くとも「金に困る」という事態は回避できるはずだ。

種蒔き(人脈の形成)

水遣り(誠実な対応)

刈取り(信頼の獲得)

という当たり前の地道な流れをコツコツと踏みしめていけば、次第に、仕事は
回り出してくる。

どうしたって、一定の時間は必要なのだ。
種を蒔いて、翌日に刈り取れる作物なんて無いんだから。

とにかく、過払金バブルのような「ラクして儲かる」ような時代は、もう二度
とやってこない以上、弁護士という職業の原点に帰るべきだね。

仕事というのは、「人」のためにするものであり、「人」を通じてしか舞い込
んでこないのだから。