沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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20)専門職の「私生道」

 90年代のパフィーのヒット曲に「これが私の生きる道」という曲がある。資生堂のCM曲でもあり、タイトルの漢字をつなげると「私生道」(しせいどう)となるなど、ウィットに富んだ遊び心のあるタイトルでもある。
 それはともかく、何度も述べているとおり、弁護士を含め、専門職には非常に厳しい時代が到来している。かつては、弁護士なら訴訟、司法書士なら登記、税理士なら税務申告さえやっていれば事務所経営は成り立ったので、他の分野に手を広げる必要もなかったろう。その意味で、専門職の「私生道」は実に画一的であったと言える。
 だが、今後は、専門職の増加に伴い、画一的にカテゴライズされた市場だけでは事務所経営が成り立たない事態が当然に予想されるので、各専門職は、自分だけのオリジナリティや強みを付加した「私生道」を模索していかねばならない。
 私も、現在、いろいろな可能性を暗中模索しているところであるが、はっきりした答えにはまだ到達していない。

 ところで、今月26日の朝日新聞によれば、公認会計士も「就職難」だそうだ。個人的な感想としては、「ついに会計士もか…」といったところである。「ついに」と言ったのは、公認会計士だけは、昨年まではずっと「売り手市場」だと聞いていたし、後述のとおり、公認会計士は異質の「士業」だからだ。

 公認会計士と言えば、言わずと知れた、ビジネス系資格の最高峰である。3大難関国家試験、3大難関国家資格など、どのような切り口でも難関資格の代名詞として登場する超難関資格である。
 私の同期(高校も大学も)にも何人か公認会計士になった者がいる。中には、大手監査法人のパートナーになっている者もいる。彼らの活躍ぶりを見ると、就職難という事態はピンとこない。

 そもそも、「士業」というのは、誤解を恐れずに言えば、「事務代行業」である。「士」という字に「さむらう。仕える。」などの意味があることからも、この解釈はピント外れではないはずだ。
 つまり、本来は、本人がやるべき手続を、時間的・心理的・技能的制約などの理由から、専門家たる第三者が「代行」しているに過ぎないのである。
 弁護士にしても、本人訴訟が許されている以上、極端な話、国民全員が弁護士なみの法的知見を有していれば、弁護士の存在価値はゼロになる。

 ところが、公認会計士だけは異質である。何故なら、企業の「監査」というのは、第三者にチェックしてもらわねば意味がないからである。こればかりは、企業内部の従業員がいかに優秀で、公認会計士なみの技能を有していたとしても、企業が自分自身を監査することはあり得ない。その意味で、公認会計士だけは、どんなに国民レベルが底上げされても、その存在価値が決して無くなり得ない稀有な「士業」である。
 
  新聞記事によると、就職難の最大の原因は、金融危機に端を発した監査法人の経営難らしい。最大手の監査法人の純損失は16億円とのことで、その金額にもビックリであるが…。
 就職難が監査法人側の採用上の理由によるのだとすれば、弁護士の場合(市場規模と有資格者数の構造的アンバランス)とは違い、景気変動次第では、いずれ就職難が解消されることもあり得るのかも知れない。

 余計な心配かも知れないが、監査法人に就職できなかった公認会計士はどうするのであろうか。
 弁護士なら、自宅を事務所にして、個人事務所をいきなり開業することもあり得るのだが、公認会計士の場合はそうもいかないはずだ。監査業務をやろうとすれば、監査法人に就職する以外の選択肢はあり得ないからだ。
 公認会計士は税理士資格も有するので、税理士事務所をいきなり開業するという手はあるが、税理士は顧問先を開拓してナンボの世界だから、これも厳しい現実が待ち受けているであろう。
 他にあり得る選択肢としては、経営コンサルタントを目指して、コンサルティング・ファーム等への就職を狙うことくらいであろうか。
 公認会計士の資格を有する経営コンサルタントは多い。公認会計士の技能は、そのまま経営分析に大いに活用できるからだ。

 さて、我が身の今後はどうするか。
 事業拡大の際、今後の成長戦略の方向性を分析・評価するためのツールとして、アンゾフの成長ベクトル(成長マトリクス)というものがある。
 これは、製品と市場を軸にした2次元の表を作り、次のような4つの戦略に分類して自社の成長戦略を練るというものだ。
   現在の市場で現在の商品=市場浸透戦略
   現在の市場で新規の商品=新商品開発戦略
   新規の市場で現在の商品=新市場開拓戦略
   新規の市場で新規の商品=多角化戦略

 この分類に倣えば、弁護士の現在の市場は「司法(法的紛争の解決)」であり、現在の商品は「法的サービスの提供」ということになろう。
 取り敢えず、市場浸透戦略を徹底していくことは当然であろうが、そのためには、より高度な法的サービスの提供が実現できるようにならねばならない。

 だが、司法という市場は有限であり、近い将来の市場拡大も望めないので、法曹人口の急増には到底耐えられないのが現実である。
 そこで、法的紛争が発生していない段階での各種法的サービスの提供も視野に入れ、新市場開拓戦略も模索していく必要があろう。具体的には、「紛争予防」や「利益追求」といった「ビジネス市場」で効果的な法的サービスが提供できるよう、既存の商品に磨きをかけていくことである。

 さらに、将来的には、法的サービス以外の新商品開発も必要ではないかと考えている。つまりは、多角化戦略である。弁護士業務の延長線上にあるものとしては、中小企業を対象とした経営コンサルティング、あるいは、離婚問題や犯罪被害で苦しむ個人を対象とした心理サポートなどが考えられよう。
 もっとも、経営コンサルティングにしても心理カウンセリングにしても、一朝一夕で身につく技能ではないので、相当な覚悟のもと、かなり長期的な展望が必要となることは言うまでもないが…。

 まあ、現時点では、市場浸透戦略を徹底させながら、今後じっくりと数年ほどの時間をかけて、私オリジナルの「私生道」を見つけていきたい。