沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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19)弁護士協会!?

 日弁連に「業際・非弁問題等対策本部」という委員会がある。「業際」というのは耳慣れない言葉だが、国相互の問題が「国際問題」ならば、士業相互の問題が「業際問題」だ、と申し上げれば分かり易いだろうか。
 また、「非弁」というのは、弁護士でない者(非弁護士)が弁護士法で禁止された法律事務等を行うことを指し、刑罰も存在する違法な行為のことである。悪質な場合は、弁護士会として刑事告発することもある。
 まあ、要するに、「弁護士の職域を侵す者は許さん!」という委員会である。

 私も、この委員会に所属しているのだが、先日、委員会のMLで次のようなことが話題になった。
 <2009年10月4日に「一般社団法人弁護士協会」の創立記念パーティーが開催されるらしいが、この団体は一体何なんだ?>と。

 当然、問題にされるくらいだから、弁護士会としては一切関与していない団体であり、「弁護士協会」という公的団体は存在しない。
 弁護士や弁護士会が関与する主な公的団体としては、
「日本弁護士連合会」(日本中の弁護士全員が所属)、
「○○弁護士会」(各都道府県に1つずつ、東京だけ3つ)、
「○○弁護士会連合会」(中部地方、近畿地方などの各ブロックに1つずつ、弁護士会の集まり)、
「○○弁護士協同組合」(任意団体)、などがある。
 
 一般的に、「○○協会」という名称は、いかにも公的な団体との印象を受ける。
 士業の世界においても、「日本公認会計士協会」、「社団法人日本不動産鑑定協会」(「士」は付かない)、「社団法人中小企業診断協会」(これも「士」は付かない)、等々が典型例として実在する。

 インターネット上のキーワード検索の履歴に目を移せば、「弁護士協会 東京」「弁護士協会 無料相談」などというキーワードが頻繁に入力されていることが分かる。つまり、「弁護士会」の名称を「弁護士協会」と誤解されている方々が非常に多いということだ。

 だからこそ、「○○協会」という名称は、架空請求や振り込み詐欺などの犯罪に利用される「ベタな名称」でもある。
 私も、「弁護士協会」という名称を聞いたとき、例の如く、この手の詐欺商法の話なのかとも思ってしまったが、どうも、実態はそうではなかった。

 ちなみに、ちょっと話がそれるが、法律にちょっと詳しい人なら、「一般社団法人」という名称が付いているだけで、「公益法人ではないので、完全に私的な団体なのかな。」ということがピンとくるはずだ。
 従来は、一般的に「社団法人(狭義)」と言えば、「公益法人」を指したのだが、規制緩和により、公益目的でなくとも「一般社団法人」というものが設立できるようになった為、わざわざ「一般社団法人」を名乗っているということは、「公益目的の団体ではない。」という一応の推定が働くからだ。
 なお、公益法人を設立するためには、法で規定された公益性等の厳格な要件をクリアーして、国や自治体に認定してもらわねばならない。自ら「公益目的だ」と名乗っても意味はなく、公益性の内容等は法で規定されているのだ。そして、公益法人として認定してもらえると、税制上の優遇措置などが受けられるという仕組みだ。
 このような規制緩和は、財団法人についても同様に及んでおり、公益目的を有しない「一般財団法人」というものも設立できるようになった。ちょっと知っておかれると良いかも知れない。

 ところで、話を元に戻すと、同団体は「弁護士と一般社会の交流促進、及び相互理解のための広報啓蒙活動と公益事業活動をおこなうこと」を目的として設立された団体らしく、役員には現役の弁護士も関与している。
 簡単に言えば、弁護士と一般の方々との交流を促進しようという趣旨なので、目指す方向性自体は、とても素晴らしいと言えよう。
 ただ、私がちょっと驚いてしまったのは、活動の目玉とされる「弁護士bar」というものだ。
 言葉のイメージからは、弁護士と一般の方々が酒を酌み交わす社交場なのかなという印象を受けたが、その中味は、「現役の弁護士がバーにバーテンダーとして常駐して接客する」のだそうだ。いやあ、実に「新しい」ビジネスモデル(!?)だ。
 ちなみに、同団体の関与弁護士は、近年登録したばかりの若手弁護士のようなので、この弁護士がバーに常駐するのだろうか…。さすがに、発想が若いというか、頭が柔軟というか…。少なくとも、私には到底思い付かないアイディアだ。

 ともあれ、残念なのは、名称選択という形式的かつ初歩的なミスであろう。
 こんな名称を使用すれば、必ず、弁護士会で問題になるに決まっているし、弁護士と一般の方々との気楽な交流というコンセプトであるならば、名称自体、もっともっと柔らかいイメージにすべきだったのでは?とも思えてしまう。

 日弁連の会則30条1項には、「弁護士は、法の規定による弁護士会以外の団体を設立して、これに弁護士会その他類似の名称を用いてはならない。」との規定がある。
 今回問題とされた「弁護士協会」という名称は、まさしく「弁護士会」と類似の名称であって、かかる規定に違反することは明白である。
 日弁連としては、10月2日付けで同団体に対して、名称変更と創立記念パーティーの中止を申し入れたようだ。

 その後のことは私自身フォロー出来ていないが、いずれにせよ、せっかくの良い方向性の事業展開が、本格的な活動以前の段階で「ケチ」が付いてしまったのであり、今後の活動にも少なからぬ悪影響を及ぼすであろう。パーティーの招待客に対するフォローも大変であったろうと思う。

 今回の件は、「危機管理のプロ」であるべき弁護士が、危機管理を疎かにして突っ走ってしまった残念な案件である。
 我々も大いに教訓にすべき点が多々あるが、それにしても、競争時代到来を強烈に印象づけるエピソードでもある。
 今後も、いろんな人達が、いろんな仕掛けで、アッと驚かせてくれることだろう…。
 と、他人事のように言う前に、当事務所こそが、世間をアッと驚かせる何かをやらねばならんか…。