沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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43)年金型生命保険への課税

 昨日(7月6日)、国税当局に激震が走った。
 ある画期的な最高裁判決が下されたのだ。

 最高裁は、年金型生命保険(被保険者が死亡した際、受取人が一定期間、死亡保険金を年金として分割で受け取るもの)について、相続税と所得税を二重に課すのは「違法」であると判断したのである。
 つまり、国税当局の「敗訴」である。

 どういうことか言うと、年金型生命保険の場合、まず、被保険者(=契約者の場合)が死亡した際に、保険金総額の2~7割が「相続財産」とみなされ、受取人は、死亡時に一旦「相続税」を納付するのだが、その後、毎年受け取る年金が受取人の「雑所得」とみなされ、毎年「所得税」が課されるという運用が実務上は定着しており、相続税と所得税が二重に課されていたのだ。

 実は、この問題、4月に開催された某団体のセミナーにて私が講演した際に取り上げた問題であったが、恥ずかしながら「二重課税」の問題については、全く触れることが出来なかった。
 と言うか、そのような「問題意識」すら欠如していた、というのが正直なところである。
 そのセミナーでは、生命保険契約を締結する際の留意点に重きを置いたので、もともと法的論点はノーマークだったのだが、確かに、言われてみれば、「二重課税」であることは疑う余地がなさそうだ。
 何故なら、所得税法9条1項15号には、「相続財産には所得税は課さない」という趣旨が明記されているからだ。

 調べてみると、このような扱いは、昭和43年(私が生まれた年!)の国税当局の通達で「合法」との「誤ったお墨付き」がなされたことで定着し、結果的に、40年以上に渡って「違法な徴税」がなされていたことになる。
 国税当局の理屈は、「年金を受け取る権利に相続税が課されるに過ぎないので、毎年受け取る年金そのものは別物だから課税できる。」ということなのだが、にわかに納得できる説明ではない。
 権利だろうが年金そのものだろうが、経済的には「同じ価値」に対して二重課税されている事実に変わりはなかろう。

 それにしても、40年以上に渡る「因襲」に対して、よくぞここまで真正面から闘い抜いたものだ。長年、誰もが闘おうとしなかった問題だけに、その勇気は実に素晴らしい。しかも、高裁では逆転敗訴だったらしいので、最後まで諦めなかった姿勢もスゴイ!
 今回の最高裁判決を勝ち取った原告及び税理士には、心から「天晴れ!」と拍手を送りたいものだ。
 
 税法は極めて複雑であり、税法の専門家以外には言葉の意味すら分からないほど難解なものになっている。
 弁護士も税理士登録はできるが、税務を専門とする弁護士はごくごく少数だ。

 ほとんどの徴税事例は、「通達」という国税当局の独自解釈によって「結論」が提示されてしまい、誰もがその結論に真正面から反発することなく、素直に従ってしまっているのが実情である。
 当然、司法判断を仰ごうとする者すら出て来ないわけだ。

 そもそも、国税当局は、法律を適正に「執行」するだけの「行政」に過ぎないのであり、法律の解釈権限など無いのだ。
 だが、実態としては、国税当局の解釈が「最終結論」のように扱われ、あたかも、国税当局が「なんちゃって司法」のような感じになってしまっている。
 本来は、このようなことから抜本的に改善していかねばならないのだろう。

 もともと、税理士の仕事というのは、「適正な納税」が主眼であるから、「決められたルールに忠実に従う」ことに最も重点が置かれ、「ルールそのものの間違いを正そう」という発想には、なかなかなりにくいはずだ。
 その点でも、今回の訴訟に関与した税理士の姿勢は素晴らしいと言える。

 ところで、今回の判決は画期的ではあるが、税金の還付請求は消滅時効が5年なので、救済されるのは5年前までの過払分だけ、というのが理屈上の帰結である。
 しかしながら、今回の問題は、税金の「違法徴収」という「国家による違法行為」なのだから、政治的判断によって、消滅時効撤廃の特例措置を講ずるべきであろう。

 一説によれば、現在、年金型生命保険を受け取っている人は数万人に達するそうである。だとすると、過去40年間で二重課税をされてきた人の数は想像を絶する数となろう。
 しかも、この二重課税問題は、年金型生命保険だけに限らず、他の金融商品にも波及する可能性が指摘されている。

 長年に渡って「合法」と誤解されてきた実務運用が、ある日突然、勇気ある国民の訴えによって、司法判断で「違法」とされ、関連業界に激震が走る。
 国民の側からすると痛快だが、関連業界にとっては死活問題にもなりかねない一大事だ。
 
 最近の例で言えば、弁護士業界・司法書士業界にとって「過払金バブル」と言われた消費者金融のグレーゾーン金利の問題がまさしくそうであった。
 そして、現実に、多くの消費者金融は経営破綻に追い込まれた。

 今回の最高裁判決で、税金の還付請求が急増し、税理士業界も一時的に「還付金バブル」のような状態になるのかも知れない。
 しかも、消費者金融と違って、相手が国だけに潰れる心配はない(!)。

 本業で食えないからと言って、「税理士登録」する弁護士が増えたりなんかして…(笑)。