沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

  • 最近の投稿

  • カテゴリー

  • 2024年4月
    « 3月    
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
  • アーカイブ

  • 法律相談
  • 顧問契約

284)キラーゼブラ

先日、某氏から交通取締りにあったとの話が。

某氏いわく、
信号機の無い横断歩道手前で一時停止せず、
待ち構えていた警察官に制止させられて、
「青切符」を切られたとのこと。

ドライブレコーダーを見せて頂いたが、
確かに、左方には歩行者が立っており、
その奥に警察官がいたという状況。

ただ、その歩行者も障害物に隠れて、
その存在に気付きにくい状況だったのも確か。
現に、某氏は歩行者を認識しなかった模様。

横断歩道手前での一時停止違反は、
反則金9000円、違反点数2点。
トホホ……である。

まあ、警察官が待ち構えている状況ゆえ、
反則金ゲット狙いの疑いが濃厚だが、
そうは言っても、道交法違反は確実であろう。

道交法38条1項によれば、次のとおり。

「車両等は、横断歩道…に接近する場合には、
当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等
によりその進路の前方を横断しようとする歩行者
…がないことが明らかな場合を除き、
当該横断歩道等の直前で停止することができる
ような速度で進行しなければならない。
この場合において、
横断歩道等によりその進路の前方を横断し、
又は横断しようとする歩行者等があるときは、
当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、
その通行を妨げないようにしなければならない。」

要するに、「明らかに歩行者がいない」
ことが確認できない限り、まずは「徐行」し、
もしも、「歩行者がいた場合」には、
必ず「一時停止」せよ、というルール。

そもそも、徐行すらしない車両が多いし、
歩行者がいようがいまいが、お構いなく、
猛スピードで駆け抜ける車両もまた多い。
これは、日々の運転で実感するところ。

当地、三重県では、そういう感じなのだが、
どうも、これ自体、地域差が大きいらしい。

日本自動車連盟(JAF)の2018年調査によれば、
横断歩道手前の「一時停止率」は、次のとおり。

【ベスト10】
1 長野県  58.6%
2 静岡県  39.1%
3 石川県  26.9%
4 島根県  26.5%
5 鳥取県  25.6%
6 愛知県  22.6%
7 福岡県  18.4%
8 神奈川県 14.4%
9 新潟県  13.8%
10 千葉県  11.9%

【ワースト10】
38 京都府  3.8%
39 福島県  3.5%
40 宮城県  3.4%
41 岐阜県  2.2%
42 青森県  2.1%
42 東京都  2.1%
44 和歌山県 1.4%
44 三重県  1.4%
46 広島県  1.0%
47 栃木県  0.9%

三重県は、あろうことか、
全国ワースト3位となる一時停止率の低さ!

一方、長野県だけが突出して高いが、
ベスト10位の千葉県ですら、
10台に9台は一時停止しないということ。

まあ、長野県にしても、
10台に4台は一時停止しないワケだが。

そして、三重県に至っては、何と、
100台に1台しか一時停止しない……。

う~む。これは、何故なんだろうか?

もはや、ここまで、
一時停止しないのが「当たり前」になると、
一時停止することで追突される危険すら生じる。

本当に、怖い話だ。

2017年11月9日、
朝日新聞の「私の視点」に掲載された記事がある。
要旨は、次のとおり。

「日本では、信号機のない横断歩道では
歩行者がいても車は止まらない。
私の母国イギリスやオーストラリアでは車は必ず止まる。
それがルールだからだ。日本の道路交通法でも
歩行者優先で車の停止が定められているが、
ルールが守られていない。歩行者と車のあいだには
日本人独特の「あうんの呼吸」があって、
その中でいつ渡るかを決めているようだ。
ただ、外国人は「日本人は親切で礼儀正しい」
と信じているので、車が止まると思い込み、
事故にあう人が出かねない。」

この記事を投稿したのは、
名城大学准教授のマーク・リバック氏。
同氏は、英国ロンドン生まれで、
日本人と結婚して20年以上日本で暮らしているが、
今も、日本では車が信号機のない横断歩道で止まらず、
歩行者を優先させないことに戸惑っているそうだ。

そして、リバック氏の母親は冗談半分に、
日本の横断歩道のことを、
「キラーゼブラ(=「人を殺す横断歩道」の意)」
と呼んだという。

歩行者を守るべき「安全地帯」であるはずのものが、
歩行者を殺しかねない「殺人ゾーン」と化している、
との痛烈な皮肉だ。

本当に、このことは、真剣に考えねばならない。

私も、この「キラーゼブラ」という表現を聞いたとき、
自らの運転意識を戒め、以後は、横断歩道手前では、
「必ず徐行して、歩行者がいれば必ず一時停止」
という本来のルールを励行できるよう努めている。

それでも、うっかりして、
一時停止をし損ねることは、いまだにあるが。

まあ、逆に言えば、
これだけ励行されていない一時停止だから、
警察からしてみれば、
「反則金をゲットしよう」と思えば、
取り敢えず、信号機の無い横断歩道近くで待機。
ということになるのかも知れない。

反則金というのは、刑事罰ではなく、
単なる行政処分に過ぎない。
従って、反則金の納付は、あくまでも「任意」。

ただし、反則金納付を拒否すれば、
刑事事件となってしまい、面倒なことになる。
普通は、それは嫌だから、
反則金を素直に納付する人が、ほとんどだ。

そもそも、道路交通法違反による罰則は、
本来、全て「刑事罰」であり、前科が付く。

ただ、軽微な交通違反全てに刑事罰を科し、
日本国民の大半が「前科者」となったのでは、
刑事罰の抑止力が低下するし、
何よりも、警察・検察・裁判所がパンクする。

そこで、軽微な交通違反については、
「反則金」という行政処分を課し、
それを納めれば、刑事罰を免除しましょう、
というのが交通反則金制度だ。

要するに、某氏は、反則金を納付したことで、
刑事罰は免れた、というワケ。

もちろん、この取締りを不服として、
徹底的に闘うこともできる。
その場合は、司法の場で検察と争うことになる。

ただし、負けてしまえば、今度は、
反則金ではなくて「罰金」を払うことになり、
それは刑事罰であるから、前科が付いてしまう、
というワケだ。

反則金は、青色の告知書なので「青切符」、
罰金は、赤色の告知書なので「赤切符」と呼ばれ、
反則金は、そのまま納めればよいものだが、
罰金は、検察官・裁判官が関与して、
裁判の結果として、命じられた罰金額を納める。

ついでに言えば、
反則金は、国の「特別会計」に入り、
「交通安全対策特別交付金」という名称で、
各都道府県・市町村に分配される。
つまり、反則金は、使い道が決まっている。

一方、罰金は、国の「一般会計」に入るので、
何に使おうが自由ということ。

つまり、警察としては、
一般会計に入ってしまう罰金よりも、
特別会計に入る反則金の方が魅力的なので、
反則金をセッセと稼ぐのは、
必然的に要求されることなんだよね。

それに、何よりも、
罰金だと、面倒な捜査が必要になるが、
反則金は、切符切るだけで楽だからね。

現に、反則金の計上は、毎年、
チャッカリ「予算化」されているので、
よく言われる「ノルマ」というのは、
存在していると言わざるを得まい。

我が家の近所でも、
一時停止ラインの横で、
ドライバーから見えないようにして、
警察官が取締りのために待機している、
なんていう光景をたまに目にするものね。

今回、某氏は、この警察の作戦に、
まんまと引っかかってしまったということ。

もちろん、ノルマ達成の為の取締りというのは、
本末転倒であることは確かだが、
全国各地で、警察の取締りが強化されれば、
いつしか、日本国民の「意識」も変わってくるはず。

外国人から「キラーゼブラ」とまで揶揄される今、
子供・高齢者も安心して渡れる横断歩道を実現すべく、
逆説的ではあるが、
警察にはガンガン反則金をゲットして貰いたい!!