沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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149)間違いさがしゲーム

未だに、悪質な「架空請求ハガキ」が手当たり次第に送り付けられているようだ。

先日も、こんな御相談があった。

いわく、「何だか訴えられたみたいなんですけど、全く身に覚えが無いので、どうしたらよいのでしょうか?」と。

聞いてみれば、1通のハガキが届いただけとのこと。

私どもからすれば、すぐに「架空請求」だとピンとくる内容だが、御本人にとってみれば、「とんでもない事に巻き込まれてしまった!」との思いが強かろう。

下記が、送り付けられてきたハガキの内容だ。

(引用はじめ)

民事訴訟告知通知書

訴訟対象者番号(キ)02897-21号

本通知書をもって当該企業より貴殿に対しての民事訴訟裁判が執り行われ、貴殿に対する請求及び財産差押えに関する必要措置手続きが開始された事を通知致します。

【内容の旨】

1 当該企業は原告に対し契約の不履行及び請求内容の不払いを申し立てており貴殿の対応により財産の差押えを執行する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 当該企業が受ける損失について財産の差押えを要求する。

4 本書の通知を持って最終通告とする。

【紛争の要点、原因】

再三の当該企業による料金請求に対し、貴殿が従わず取合う誠意が見られなかったものとし、最終手段として裁判所による請求取立てを行うものとする。

通知内容のご確認につきましては当センターにて受け付けております。また内容に関してのお問い合わせに関してはプライバシー保護のためご本人様のみのお受付けのみとなります。ご連絡がない場合に関しましては請求内容の判決の元執行官立会いにて財産の差押え等が執行されるおそれがありますので必ず異議がある場合に関してはご連絡のほどお願いいたします。

【異議申立手続き最終期日】

通知到達日より5日

法務省管理局 民事訴訟総合報告センター

〒102-0073 東京都千代田区九段北2丁目35番8号

受付時間 平日9:00~17:00

ご相談ダイヤル 03-4477-2833

(引用おわり)

素人が読んでも、突っ込み所満載の内容だ。

でも、いざ「当事者」になってしまうと、そんな冷静な目では見られないんだろうけどね。

自分でも、何だかおかしいなとは思いつつも、「ひょっとすると…」という思いがこみ上げてくるに違いない。

そういう意味でも、本当に悪質である。

まあ、内容的には検証する価値も無いんだけど、ちょっと「間違い探しゲーム」のつもりで見てみよう。

と、その前に、まずは、民事訴訟・民事執行手続の大まかな流れを整理しておく。

1)他人からお金を回収したい人は、自分を原告として「訴状」を作成し、裁判所に裁判所用と被告用の訴状を各提出する。

2)裁判所は、その「訴状」を被告とされた者に郵送する。郵送の方法は、「特別送達」という特殊な方法により、確実に被告本人に「手渡し」される。

3)被告へ訴状が届いたことが「証明」されて、初めて訴訟が成立する。

4)訴状の郵送時には第1回口頭弁論期日の呼出状も同封されており、被告が答弁書も提出せずに期日をすっぽかすと、いわゆる「欠席判決」が出されて、被告は敗訴となる。

5)訴訟の中では、お互いに、主張・反論を繰り返し、証拠も出し合って、最終的にジャッジ可能な段階に至ったら、裁判所が判決を言い渡す。

6)一審判決の結果に不服がある者は、その後、控訴・上告という方法により、引き続き、裁判所で争う方法が用意されている。

7)判決書が届いてから2週間以内に控訴・上告をしないと判決は確定する。

8)判決が確定したのに、被告が自発的に支払わない場合は、強制執行手続によって財産を差し押さえることができる。

9)強制執行によって財産が換金できれば、めでたくお金の回収が実現する。

特別送達というのは、「配達担当者が郵便送達報告書を作成し、『郵便認証司』という国家資格者が認証することによって、日本郵便株式会社が送達の事実を証明する。」という特殊なものなので、特別送達が普通郵便で送付されることはあり得ず、書留郵便でしか送付されない。

ちなみに、書留などの用語説明は次のとおり。

<一般書留>

引受から送達過程、配達までの記録が追跡・確認できる。通過していく間の支店まで記録していくのでつぶさにどこを通っているのか確認できる。

手渡しで受取人からサイン・印鑑をもらう。

実損で500万円までの補償がある。

<簡易書留>

一般書留の簡易版。引受と配達完了までが記録され追跡確認できる。

手渡しで受取人からサイン・印鑑をもらう。

実損で5万円までの補償がある。

<特定記録>

引受とポスト投函の記録が追跡確認できる。

ポストに投函したら終わり。

特に補償もない。

で、例のハガキの「間違い探し」をしてみよう。

1)郵送方法の間違い

前記のとおり、訴訟というのは、特別送達という特殊な方法により、確実に被告に届けられるのだ。

つまり、知らない間に敗訴判決が下っていたなんていうことは、原則的にあり得ないので、ハガキがポストに投函されていたということだけで、偽物だと分かるワケ。

2)日本語の間違い

まあ、これは、突っ込むまでもないのかも知れないけど、告知と通知は同義だし、措置と必要手続も同義だから、「告知通知」とか「必要措置手続」というのは、「頭が頭痛だ」とか「必ず必要だ」とか「日本に来日する」といった恥ずかしいレベルの二重表現だね。

3)手続内容の間違い

この人は、民事訴訟と民事執行が別々の手続であることを全く知らないようだ。

前記のとおり、民事訴訟手続によって「勝訴判決」を得た者が、その後の民事執行手続によって「財産の差押え」ができるワケで、手続も別々だし、裁判所も別々なので、「裁判所による請求取立て」なんて表現は、全くの意味不明。

ハガキの文章は、終始一貫、請求と執行とがゴチャゴチャで、まるで訳が分からないのだが、「請求内容の判決の元執行官立会いにて財産の差押え等が執行される」なんていう表現は、思わず笑っちゃうくらいの混乱ぶりだ。

請求や執行の当否をジャッジするのが「裁判官」で、強制執行の執行機関が「執行官」なのだが、この人は、執行官が判決を書くとでも思っているようだね。

4)事件特定の間違い

民事訴訟には、裁判所によって、事件番号が付される。

たとえ当事者が同じでも、請求内容が異なれば別々の事件番号となる。

従って、「訴訟対象者番号」なんて表記はあり得ないし、そもそも、「誰が何を請求をしているのか?」すら全く分からない。

ハガキにある「当該企業」って誰やねん!ということだし、「料金請求」の内容(何の契約でいくら?)すら特定されていないワケで、そんな裁判があろうはずもない。

もっと言えば、「財産の差押え」って何を差し押さえたいんや!という話なのだ。

強制執行するにしたって、原告サイドで、被告が所有する財産を「特定」しないとダメなんだけどね。

5)差出人の間違い

差出人は、何と「法務省」(=行政庁)である。この人は、三権分立という憲法の理念を知らないようだ。まあ、安倍さんも相当あやしいけどね…。

当然ながら、訴訟の管理をするのは司法である裁判所なのであり、法務省が裁判の管理をしてどうすんだ!という話。

6)住所の間違い

もともと「架空」の請求なので、住所だって当然に「架空」だよね。

千代田区九段北は、2丁目4番までしか存在しないので、2丁目35番という住所は明らかに架空だ。

以上、まだまだ突っ込み所はあるんだけど、バカバカしいくらいに「いい加減」な内容だ。

でも、何度も言うけど、いざ「当事者」になっちゃうと冷静さを失うのが人間ってもんなんだよなあ。

ついつい、「私、全く身に覚えがないんで、何かの間違いだと思うんですけど…」なんて電話でもしちゃうと、「おお、カモが釣れたぞ~!」ということになっちゃうワケ。

まあ、「プライバシー保護」なんて言っている輩が、誰でも閲覧できちゃうハガキで送って来ること自体、大いにふざけた話なんだけど、こういう「ふざけた野郎」のカモになるほどバカバカしいことはないよなあ。

ということで、ちょっとでも不安なことがあったら、是非とも弁護士に御相談を!!