沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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241)現金の売買!?

先月下旬、娘が、テレビを見ていて、
「最近、現金がネットで売られているらしいよ。」
という訳の分からない話題を振ってきた。

確かに、テレビを見ると、
「現金5万円が、6万円で売りに出されている」
という報道がされているではないか。

普通に考えれば、「?????」な話。

私は、てっきり、
「発行枚数の少ない希少紙幣なのでは?」
と思ったのだが、どうも、それも違うらしい。

ごく普通の「現行紙幣」が、
相当な高値で売りに出されているのだ。

売りに出されていたのは、
「メルカリ」という「フリマアプリ」。

つまり、フリーマーケット(個人間売買)であり、
株式会社メルカリが、決裁を仲介するため、
安全に出品・購入ができるという仕組みのようだ。

現行紙幣が出品されるという現象は、
このメルカリだけでなく、
「ヤフオク」などのオークションでも見られたという。

結局、この「異常現象」は、
メルカリやヤフーが、すぐに「出品禁止」としたため、
今では、すっかり見られなくなったようだ。

だが、この訳の分からない現象は、一体何だったのか?

よくよく調べてみると、どうも、
メルカリやヤフオクの決済方法に「秘密」がありそうだ。

従来、個人間売買の決済方法といえば、
「銀行振込」か「代金引換(代引き)」であった。

ところが、メルカリでは、
「クレジットカード払い」や「ポイント払い」が可能。

では、何故、この決済方法だと、
「現行紙幣を高額で買いたい」という人が現れるのか。

まずは、クレジットカード払い。

日本に複式簿記を輸入したのは福沢諭吉だそうで、
「debit」(デビット)=「借方」(資産)
「credit」(クレジット)=「貸方」(負債)
と翻訳したのも福沢諭吉なんだそうだ。

何が言いたいかというと、
クレジットカード決裁は、「負債」だということ。
つまりは、「借金そのもの」である。

対して、デビットカードというのは、
「資産」(預金)の範囲で決済するというものだね。

で、どうしても、「今」現金が欲しいという人は、
クレジットカードで「借金」をしてまでも、
メルカリに出品されている現金をゲットしたい!のだ。

クレジットカードの支払方法も、
「リボ払い」なんかにしてしまえば、
毎月5000円程度の定額払いでよいので、
当面の生活はしのげる!と安易に考えるのだろう。

だが、5万円を元金とするならば、
1万円の金利は、まさに「暴利」という他はない。
年率に換算すると、240%(!)だからね。

しかも、本来、金利であるはずの1万円に、
今度は、リボ払い(年率15%ほど)の金利までかかり、
まさに「金利が金利を生む」アリ地獄へと陥ることに。

こんなことをしてまで、
5万円の現金を手に入れたい人というのは、
ありとあらゆる金策が尽きてしまった人なんだろう。

当然、消費者金融も目一杯利用しているだろうし、
クレジットカードのキャッシング枠も使い切ってるはず。

そして、それこそメルカリを利用して、
家にある「売れる物」は売り尽くしてしまったに違いない。

結局、クレジットカードのショッピング枠を現金化する、
という最終手段でしか借金ができないということなのだ。

だが、この「ショッピング枠の現金化」は、
カード規約に違反するので、カード会社が知れば、即アウト。
「打ち出の小槌」たるクレジットカードも、使えなくなる。

まあ、ここまでいったら、サッサと自己破産した方がいい。

ところで、メルカリのルールでは、出品者は、
販売価格の10%をメルカリ事務局に納入するそうだ。

6万円なら、6000円を納入することになるが、
それでも、出品者は、「4000円」を儲ける計算になる。

何とも、「濡れ手で粟」の商売だが、
これを業としてやり始めたら、もちろん、違法金融だ。

まさに、闇社会の「貧困ビジネス」という感じ。
よくもまあ、こういう所に目を付けるもんだよねえ……。

さて、次は、ポイント払いだ。

メルカリでは、出品者は、
売買代金をメルカリ事務局から受け取ることになる。

この際、「銀行口座」が必要とされている。

ところが、世の中には、銀行口座への入金を嫌う人がいる。

例えば、借金だらけで、銀行口座の差押えをされちゃう人。
例えば、生活保護を受けている人。

銀行口座の差押えをされる恐れがあれば、
銀行口座への入金は、当然に嫌だよね。

生活保護を受けている人にしても、
役所が銀行口座を定期的にチェックするので、
銀行口座への入金があることが役所に知れてしまうと、
受給した生活保護費を返還せねばならない、とされる。

という訳で、こういう人たちは、
銀行口座への入金ではなく、「現金」で受け取りたいのだ。

そこで、活用できるのが、ポイント払い。

メルカリを利用して、まずは、何かを出品する。
それが売れた時に、銀行口座への入金ではなく、
ポイントと交換するのだ。

そして、そのポイントを利用して、
今度は、出品されている「現金」を購入する。

こうすれば、出品者から現金そのものが送付されてくる。

なるほど、うまく出来た話だよなあ。

当事務所は、大手損保の顧問をしている関係上、
交通事故案件が多く、特に「加害者」側に立つことが多い。

そうすると、被害者が生活保護受給者ということがある。

交通事故の損害賠償金も、役所から見れば「収入」なので、
賠償金をもらうと、受給した生活保護費を返還せねばならない。

そこで、そのような被害者は、
「銀行振込ではなく、現金でもらいたい」と要望するのだ。

だが、日々大量の処理をしている保険会社としては、
逐一、個別の要請に応じることは難しいし、
現金での支払となると、領収証を受領せねばならず、
その管理・保管上の問題も生じてしまうので、
このような要望は、基本的にはNGとなることが多い。

まあ、かわいそうではあるが、
生活保護費の原資が税金である以上、やむを得まい。

以上のごとく、
「現金の売買」という奇妙な現象は、
「現金が欲しい」という特殊な需要に基づくようだ。

でも、こういう手段で「現金」を求める境遇自体が悲しい。

以前にも書いたが、マシュマロテストというのがある。

被験者である子どもは、
気が散るものが何もない机と椅子だけの部屋に通され、
椅子に座るよう言われる。
机の上には皿があり、マシュマロが一個だけ置いてある。
実験者は、「私は用がある。それはキミにあげるけど、
私が戻ってくるまで、15分間食べるのを我慢したら、
マシュマロをもう一つあげる。
私がいない間にそれを食べたら、二つ目はなしだよ」
と言って部屋を出ていく、という実験だ。

我慢して二つ目のマシュマロを手にした子どもは、
その後の追跡調査で、社会的に成功していたという話。

やはり、このマシュマロテストのごとく、
「今の快」と「未来の快」のいずれを選択するか、
という重要な意思決定の場面において、
「今の快」を選択する人というのは、
「借金地獄」に陥る可能性があるんだよねえ。

もちろん、事業者ならば、よい借金というのはある。
借金を投資に回して、それ以上の利益を生めばよい。

だが、全く利益を生まない生活者においては、
住宅ローンや自動車ローンは、まだよいとしても、
生活費や遊興費のための借金は、ダメだよねえ。

「今の不快」を選び、「未来の快」を招くのが、投資。
「今の快」を選び、「未来の不快」を招くのが、借金。

「今の快」を優先してしまう人というのは、
「給料日前なんで…」というセリフを言う人なのでは。

給料日前だから金欠で、給料日後だから金満というのは、
あまりにも、計画性の無い遣り繰りだもんねえ。

まさに、アリとキリギリスの話。
一度、キリギリスの生活を憶えちゃうと、脱却は難しい。

とにかく、コツコツと、だね。