沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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161)消費者金融なるもの

現在、日本人の9人に1人、
何と1400万人もの人々が消費者金融を利用しているそうだ。

うち、自己破産予備軍は300万人とも。
これは、利用者全体の約2割。

まあ、高利なんだから、自己破産予備軍が多いのは当然。
だが、私が驚くのは、自己破産予備軍が全体の2割だけという事実。

つまり、少なくともデータ上は、残り8割の人々は、消費者金融を「上手に利
用」できているということなんだろうか??

例の「グレーゾーン金利」が撤廃された現在、消費者金融の金利は利息制限法
の範囲内に収まっているものの、それにしても、下記のとおり、とんでもない
高利である。

(1)元本が10万円未満=年20%以下
(2)元本が10万円以上100万円未満=年18%以下
(3)元本が100万円以上=年15%以下

例えば、50万円を借りれば、年18%という高利の借金となる。

実際、年利18%で50万円を借りて、毎月1万円ずつの元利均等返済をした
場合、完済すると、結果は下記のとおり。

返済期間=7年9ヶ月(93回払い)
返済総額=93万円

驚くべきことに、返済総額は、元本のほぼ2倍!!
ゾッとする話だ。

まあ、月額1万円くらいなら、何とか返済できるし、楽勝・楽勝!
なんて思って、借りてしまう人が多いんだろうけどね。

これは、クレジットの「リボ払い」に抱く安心感と同じ「錯覚」。

ホントは、利息だけで50万円近くもムダにするなら、親戚や知人に頭下げた
方がよっぽどマシなんだろうけど、そこはまあ、プライドもあるだろうし、無
担保・無保証で、ATMでササッと即日融資してもらえる消費者金融っていう
のは、至極便利なものなんだろうね。

ただ、消費者というのは、文字どおり、消費活動ばかりで生産活動を全くしな
いワケだから、事業者のように、ジャンジャン投資をすることで、投資額を上
回る「利益」を生み出すなんてことは、到底不可能。

つまり、通常は「増収」による「増益」を期待することはできないので、もし
も収支トントンで借金してしまったなら、「支出」を徹底的にセーブしない限
り、永久に完済できないということ。
これは、誰がどう考えても分かる単純な事実だが、切羽詰まって借りる本人の
頭からは、そんなことはキレイ・サッパリ消えてしまっている。

支出のセーブができない限り、翌月の借金返済のために、また新たな借金を繰
り返すという、まさに「借金返済地獄」に足を踏み入れることになる。

あくまでも私見だが、消費者金融を「上手に利用」できる場合というのは、次
の要件を全て満たすような場合に限られる。

(1)一時的な入用の借金であること
(2)年収の1割以下の借金であること
(3)1年以内に返済可能であること

例えば、年利18%で50万円を借りても、1年で元利均等返済をするなら
ば、完済した結果は、下記のとおり。

返済月額=4万5800円
返済総額=55万円

つまり、ムダに払う金利は5万円で済むのだ。
これなら、50万円という大金をササッと借りられる消費者金融は、生活の強
い味方という感じだね。

でも、これを完済するには、家計が毎月5万円以上の「黒字」でないとダメな
んだよねえ。
年収300万円で、毎月5万円の黒字を確保するのは容易ではないはず。
やはり、年収に見合った「少額」の借金に抑えることが肝要なのだ。

とは言え、多くの人は、そんなに上手い具合に借金などできず、恒常的に不足
する「生活費」の補填のために、藁をもつかむ気持ちで借金をしてしまうのに
違いない。
結果、翌月の返済資金すら工面できず、ついには「借金返済」のための借金を
繰り返すという「魔の連鎖」に陥り、自己破産予備軍に向かって、まっしぐら
に突っ走ってしまうというワケ。

私が弁護士なりたての頃(90年代後半)は、バブル崩壊後の不況も手伝い、
まさに消費者金融が全盛期を迎えつつある頃で、私の個人受任事件(事務所の
ボスから任される事件以外のもの)の大半は「サラ金破産」であった。

相談に来る人の家計状況を見ると、何と、
【毎月の借金返済額】>【毎月の収入額】
なんていう人ばかりで、毎月新たな借金をし続けながら、何とか、その月限り
の生活を繋いでいるという悲惨な状態。

皮肉なことに、生活には余裕があるものの、ちょっとした「遊ぶ金」欲しさに
消費者金融をスポット利用するなんていう人の方が、消費者金融を「上手に利
用」できていたりするんだろうね。

もともと、生産活動を全くしない消費者に対しては、前述のとおり、「一時
的」で「少額」の「短期」融資しか、あり得ないのだ。

今の制度では、年収の3分の1までしか貸付けできないという「総量規制」が
存在するけども、これは、年収の3分の1まで借金の「元本」が占める可能性
を意味するので、返済総額は大変な金額に達する。

例えば、年収300万円の人が、年利18%で数社から総額100万円を借り
ていて、3年で元利均等返済をするならば、完済した結果は、下記のとおり。

返済月額=3万6000円
返済総額=130万円

まあ、現実には、完済は厳しいだろう。
そもそも、ここまで借りちゃう人は、ほぼ例外なく、毎月の家計が「赤字」の
はずだからね。

返済期間を10年まで延ばせば、下記のとおり、返済月額こそ半分に抑えられ
るけども、毎月の家計が赤字なら、どっちみち返しようがないよね。

返済月額=1万8000円
返済総額=216万2000円

消費者金融は、1990年代後半から2000年代前半まで、まさに「わが世
の春」を謳歌していた感があった。

1960年代に現在のような消費者金融が登場するまでは、消費者向けの「一
時的」で「少額」の「短期」融資は、<質屋>が一手に担っていた。
それが、バブル崩壊後に普及し始めた消費者金融の「ATM」とTVのCM効
果によって、一気に消費者金融がメジャーな存在となっていった次第。

例えば、2002年度の法人申告所得を見ると、上位30社に消費者金融大手
4社がチャッカリと名を連ねている。

11位 武富士  申告所得 1956億円
12位 アコム  申告所得 1467億5200万円
20位 アイフル 申告所得 1096億1100万円
21位 プロミス 申告所得 1077億7600万円

まあ、明らかに「儲け過ぎ」なんだよね。
ホントは、お金に困っている消費者相手の商売なんだから、昔のように、街中
で見かける<質屋>くらいの規模で丁度いいはずなのに。

当時の金利と言えば、グレーゾーン金利の上限であった「29.2%」という
のが常識だったから、まさに「暴利」の一言に尽きる。

で、その後、グレーゾーン金利に関する一連の最高裁判決によって、その「暴
利」を「過去に遡って全部はき出せ!!」なんていう異常事態になったもんだ
から、栄華を誇った消費者金融各社は、銀行の後ろ盾のある会社以外は、軒並
み「倒産」という悲しい顛末に至った。

一方、消費者金融から「はき出された」お金は、消費者とその代理人である弁
護士・司法書士とで分配されることとなった。

この「はき出された」お金は、一説には10兆円近くにも及ぶと言われ、弁護
士・司法書士業界では、「過払金バブル」と呼ばれる一大ブームが巻き起こ
り、連日、法律事務所のTVCMが流されたのは御存知のとおり。

だが、2006年から始まった「過払金バブル」も、間もなく、確実に「終
焉」を迎える。
グレーゾーン金利が法的に撤廃され、制度上、過払金自体が新たに発生しなく
なったからだ。

私は、他の業務に追われる中、ついに、このブームの波には乗れず終いであっ
たが、ピーク時には、弁護士1人の零細事務所ですら、年収が「億」に達した
なんていう話が、そこら中で飛び交っていたもの。

ところで、2006年と言えば、ロースクールの1期生が弁護士になった年で
もある。
この時から、弁護士人口の「激増」が始まるワケだが、時を同じくして「過払
金バブル」時代に突入したので、ベテラン弁護士たちも、新人弁護士たちも、
弁護士人口激増による「食えない実感」を持つこともなく、徒に時を過ごして
しまった。

そして、過払金バブルが終焉を迎えつつある今、ようやく、業界の危機的状況
を察知した多くの弁護士たちが、「さあ、これから、どうやって食べていこう
か?」と本気で焦り始めたというのが、まさに今の時代。

まあ、結論から言えば、司法という「紛争解決」だけで「左団扇」という時代
は二度と来ないと断言できるワケで。

弁護士として、紛争解決「+α」で、何を為し得るか?
この「+α」こそ、各弁護士が、これから模索していく最重要課題だ。

勿論、私には私なりの「解答」がある。
その「α」を信じて、ただ突き進むのみだね。

それにしても、80年代後半~90年代初頭の「バブル景気」(=私は学生)
にしろ、わが弁護士業界の「過払金バブル」にしろ、つくづく、私自身は、バ
ブルという「お祭り騒ぎ」には縁が無いもんだね(苦笑)。