沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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123)納税のススメ

 税務署に頼まれたワケではない。
 もちろん、国の財政は憂うべき事態だが、今回は、その話でもない。

 誰だって、税金は払いたくない。
 私だって、当然そうだし、節税は、納税者の一大テーマだろう。

 だが、中小企業の社長さんに、声を大にして言いたい。

 もっともっと会社の「キャッシュ」を増やしたいなら、節税なんかしない
で、ドンドン納税すべし!!と。

 そう、「会社のため、自分のため」の納税のススメなのだ。

 まあ、言ってることが「???」だろうから、まずは、中小企業診断士A氏
と中小企業社長B氏のやりとりを。

B社長
 「先日、創業10周年を迎えたんだよ。お陰様で、創業以来、ずっと黒字経
営でね。」

A診断士
 「それはそれは、おめでとうございます!それにしても、10期連続黒字経
営とはスゴイですね!しかも、創業以来、赤字が全く無いなんて!」

B社長
 「いやあ、有り難う!!それで、創業10周年を記念して、社員全員をドカ
ーンと慰安旅行にでも連れて行こう!なんて思っててね。」

A診断士
 「それはいいアイディアですね!社員のモチベーション・アップにもつなが
りますよね。」

B社長
 「ところがさあ…。これだけ黒字が続いたんだから、さぞかし内部留保がた
っぷりあるだろうと思っていたのに、昨日、経理に確認したら、現金・預金が
300万円しか無いって言うじゃない。ひょっとして、誰かが不正をしてるん
じゃないかと思って……。」

A診断士
 「いやいや、内部留保というのは利益剰余金のことですから、過去の利益の
単なる累計額に過ぎません。利益を投資に回したりすれば、資産に化けてしま
うので、現金・預金という形のまま残っているワケではないですよね。」

B社長
 「う~ん。でも、ウチは開業時にドカッと設備投資をしただけで、その後
は、特に追加投資はしてないんだけどなあ……。」

A診断士
 「ひょっとして、その設備投資って、借金で賄いました?」

B社長
 「もちろん。でも、それが何か?」

A診断士
 「じゃあ、現金・預金が無くなった原因は、借金返済ということですね。」

B社長
 「えっ!?でも、借金返済って、必要経費でしょ??税引き後の利益が借金
返済で減ってしまうって、ど、どういうこと?」

A診断士
 「まあ、確かに、借金の利子部分は経費として計上できますけど、元金部分
の返済は、経費にはなりませんよね。だから、借金の元金返済をしようと思え
ば、税引き後の利益を取り崩していかないとダメっていうことですよね。」

B社長
 「そっかあ……。うっかりしてたなあ……。10期連続黒字経営ってことに
浮かれて、税金も全く気にしないで、税理士の言うままにポンポン気前よく払
ってきたからなあ……。う~ん。今後は、シッカリ節税していかないとダメだ
ねえ。」

A診断士
 「もちろん、節税自体は大切ですけど、何のための節税です?」

B社長
 「そりゃあ、税金に大事なお金を回すくらいなら、その分、ドンドン借金を
返して、今度こそ、シッカリとキャッシュを蓄えないとね!」

A診断士
 「いやいや、そういう目的のための節税なら、とてもムリな話ですね~。ホ
ントにそれをやりたいんなら、脱税するしかありませんよ。もちろん、私は、
聞かなかったことにしますけど…。」

B社長
 「だ、脱税!?な、なんて、人聞きの悪い!!でも、一体、どういうこ
と?」

 ちょっとでも会計を勉強したことがある人なら、この会話のツボはお
分かり頂けると思うが、以下、簡単に解説してみたい。

 まず、一部の経営者に、たま~に見受けられるのが、
   借金返済 = 全額必要経費
という勘違い。

 A診断士の発言どおり、経費になるのは、借金の利子部分だけ。
 これは、会計の知識があれば当然に分かる話。

 そして、意外に多くの経営者に見受けられるのが、
   内部留保 = 会社の貯金
という勘違い。

 まあ、「内部留保」とか「利益剰余金」なんていう「言葉の響き」から、ど
うしても、会社の中に「キャッシュが残っている」という印象を強く受けてし
まうのかも知れない。

 利益剰余金というのは、「企業活動で得た利益(税引後)のうち、株主に分配せずに社
内に留保した額」のことだから、キャッシュの有無とは何の関係もない。

 内部留保を投資に使おうと借金返済に使おうと、利益剰余金(内部留保)は
一切変動しない。
 借金返済は、現金が外に出ていくので、おや?と思うかも知れないが。

 投資の場合は、現金が減って、その分、資産が増える。
 借金返済の場合は、現金が減って、その分、負債が減る。
 だから、バランスシート(貸借対照表)のバランスは維持されるので、利益
剰余金(内部留保)は、いじる必要がないのだ。

 ところで、会社に「利益」が出た場合、次の「順番」でキャッシュが流出し
ていく。
 実は、この「順番」こそが大切で、経営者は、この点を肝に銘じておかねば
ならない。

1)税金の支払
2)借金の返済
3)将来への投資
4)株主への配当
 

 そう、1)税金をシッカリ払った後でないと、2)借金は返済できないとい
うことなのだ。

 別の言い方をすれば、1)税金を支払って、2)借金を返済するのに十分な
だけの利益を出さないと、そもそもダメということ。

 じゃあ、B社長のごとく、1)税金の支払をカットすれば、その分、2)借
金の返済や貯蓄にお金が回せるのか。

 これまた、一部の経営者に、たま~に見受けられるのが、
    節税 = キャッシュの流出カット
という勘違い。

 もちろん、そんなはずはない。

 そもそも、節税って何?ということになると、要は「利益を圧縮すること」
に他ならない。
 利益を圧縮する方法は、売上を下げるか、経費を上げるか、どちらかだ。

 売上を下げたら、その分、キャッシュは会社に入ってこない。
 だから、この方法は最初からダメ。

 ならば、経費を上げるとOKなのか?
 だが、基本的に、キャッシュが出ていかない経費というのは無い。
 この点が、よ~く勘違いされる点。

 もちろん、「当期の決算」だけに限れば、キャッシュが出ていかない経費
(非支出経費)というものも確かに存在する。
 例えば、「減価償却費」や「買掛金・未払費用」なんかがそうだ。

 だけど、減価償却費っていうのは、過去にドカーンと流出したキャッシュを
その後チョビチョビと経費化しているに過ぎないワケだし、買掛金・未払費用
なんかは、来期になれば必ずキャッシュが流出してしまう性質のものだ。

 つまり、過去・現在・未来に渡って、ず~っとキャッシュが流出しない経費
なんてものは存在しない。

 節税というのは、ズバリ、キャッシュが出ていくこと!

 これが結論である。

 だから、節税して「その分を」借金返済に充てるとか、貯蓄に回すなんてい
う発想自体、全く理屈に合わないワケ。

 やるなら、節税ではなくて「節約」だ。

 例えば、年間100万円の節約をすれば、100万円のキャッシュ流出がカ
ットできる。
 つまり、利益が100万円アップする。
 法人税等の合計税率が40%だとすると、40万円が税金として出て行く
が、残りの60万円はキャッシュとして確実に会社に残るという話。

 で、結局のところ、節約しながら、利益をシッカリ出して、ドンドン納税す
ることこそが、蓄財への最短距離という結論。

 もちろん、脱税しちゃえば、バカみたいに蓄財できるワケだが、我が国の優
秀な税務官僚を騙せる自信のある人は、どうぞお好きに……。

 おっと、今のは、弁護士・中小企業診断士としてではなく、あくまでも一個
人としての発言です。