沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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90)マーケティングは「人」なり

 2008年の前半頃だったろうか、書店で「弁護士のためのマーケティングマニュアル」(出口恭平著、第一法規)という本を見つけたとき、ゾゾッと背筋に衝撃が走る思いがした。
 十分に予想していたこととは言え、「とうとう、こういう時代に突入したんだなあ…」という思いを改めて抱いた次第。

 もちろん、迷うことなく、その本を手にしてレジへ直行。
 ほどなくして、私は、自身の事務所経営とクライアントサービスの両面を向上させるべく、中小企業診断士の資格を取得しようと本気で決意し、十数年ぶりとなる「受験勉強」を開始したのであった。

 あれから4年、今や、弁護士がマーケティングを実践するのは「当たり前」という時代になってしまった。

 だが、そもそも「マーケティングって何なの?」と問われたとき、果たして、世の弁護士は正しく答えられるのだろうか。

 弁護士業界は、近時まで、消費者金融業者に対する過払金返還請求訴訟が盛んで、マスコミでは「過払金バブル」などと皮肉られつつ、多くの法律事務所が派手な広告宣伝活動や事務所規模の拡大に没頭していった。
 私自身は、結局、このバブルの波には乗れずじまいだったが、このような派手な広告宣伝活動を通じて、ジャンジャン自身の法律事務所を「売り込む」活動(=セールス)こそがマーケティングだ!などと誤解してはいないか。

 マーケティングというのは、セールスとは全く異なるものだ。

 あの「もしドラ」で有名になったドラッカーは、「マーケティングとは、セールスを不要にすることである。」とまで言い切っている。

 どういうことか。
 経営学の教科書的には、以下のように対比して説明できよう。

 セールスとは、「売り込む」ことである。
 マーケティングとは、「売れる仕組みを作る」ことである。

 セールスの対象は、目の前の顕在顧客である。
 マーケティングの対象は、潜在顧客を含む市場全体である。

 セールスの目標は、今期(現在)の業績拡大である。
 マーケティングの目標は、来期以降(未来)の業績拡大である。

 比喩的に言うならば、次のような結論となる。

 セールスとは、「刈り取り」のことである。
 マーケティングとは、「種まき」のことである。

 弁護士業界で言えば、
  目の前の相談者と委任契約を結ぶのがセールスで、
  目の前に相談者を連れて来るまでの仕組み作りがマーケティング、
ということになる。

 過払金バブルの時代には、市場は「顕在顧客」で溢れていた。
 顕在顧客が溢れかえる市場(池)に、派手な広告宣伝活動によって「釣り糸」をジャンジャン垂らすもんだから、いわゆる「入れ食い状態」が全国各地で発生したというワケだ。

 これは、言ってみれば、典型的なセールス活動。
 つまり、そこに顕在化している収穫物を「ひたすら刈り取る」活動なのであり、結局、市場は見事に刈り尽くされ、多くの消費者金融業者の倒産という経済的には「負の結果」だけを残して、過払金バブルは終焉した。
 
 業界としては、今も続く司法改革による弁護士人口激増という苦境下にはあったが、この過払金バブルにより、多くの若手弁護士が経営難を逃れたという側面もあるし、過払金バブル自体をどうこう言うつもりはないが、弁護士が取るべきマーケティング活動というのは、こんなもんじゃないはずだというのが私の率直な意見だ。

 弁護士は、クライアントの「悩み」を解決することが使命である。
 人が、私生活に関する自身の悩みを全て打ち明け、赤の他人に助けを請うなどというのは、極めて「異常な事態」であり、並大抵のことではない。
 そこには、クライアントと弁護士との間に強固な「信頼関係」が築かれる必要があるし、そもそも、クライアントが弁護士を「人として」信用してくれることが、大前提となるであろう。

 お陰様で、私自身は、弁護士・中小企業診断士の諸活動を通じて、あらゆる方々と密に交流させて頂く中で、本当に信頼できる大切な人脈を築かせて頂いている。

 そのような信頼できる方々からの紹介案件こそが、私の事務所経営の大きな柱になっているのも事実だ。
 
 このデジタル時代に何を言ってるんだと思われるかも知れないが、結局は、人と人との交流という「超アナログ」な人間関係こそが、弁護士のマーケティングそのものなのである。

 弁護士の中には、夜の飲み屋が「営業の場」と言う人もいる。
 もちろん、これだって、十二分に立派なマーケティング活動である。

 飲み屋で仲良くなって、その勢いで、思わず顧問契約を結んでもらう。
 いざというときに、ふと、「あの飲み屋で知り合った弁護士に相談してみよう。」と思い出してもらう。
 常連客がママさんに愚痴をこぼしている中で、「うちのお客さんに良い弁護士さんがいるよ。」と言って紹介してもらう。
 まさしく、飲み屋に通い続けること自体が、この上ない「種まき」になっているワケだ。

 大したビジョンもなく、やみくもに広告宣伝活動に没頭しているよりは、よっぽど素晴らしい経営活動だと言えよう(笑)。

 弁護士は、結局のところ、自分自身が「商品」なのである。
 私なんぞは、飲み屋での夜の活動は得意ではないので、専ら、昼の活動で、私自身の「人となり」をアピールしていくしかないかな(笑)。

 まあ、このHPも、私の「人となり」を表現する大切なツールとなっているワケなのだが、「何だよ~、会ってみたら、ただのショボイおっさんやないか……」などと陰口をたたかれぬよう、ピシッと気合いを入れて、品の良い振る舞いをしていかねばネ(笑)。