沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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86)消費税の正体

 連日、消費税の税率アップに関する増税論議がマスコミを賑わせている。
 政府としては、2015年までに税率を10%まで上げ、その後も更に上げていきたい考えのようだ。

 消費税と言えば、消費者が負担する税金なので、国民、とりわけ低所得者いじめのような印象を抱かれるようだが、私は、ちょっと違う見方をしている。

 そもそも、「消費税」というネーミング自体が、悪意に満ちたネーミングなのである。

 政府は、かつて「売上税」というものを導入しようとしたことがあるが、産業界の激烈な反対を受けてアッサリ断念した。
 売上税は、文字通り「売上高」を基準に課税されるものだから、利益率の低い業界には大打撃である。
 産業界が猛反対するのも当然である。

 そこで、登場したのが消費税というワケだ。
 政府としては、売上税導入失敗の教訓を活かし、何とか産業界の猛反対を受けないよう「悪知恵」を絞ったわけである。
 そう、消費税は、「消費者から預かった税金を単に納めてもらうだけ」だから、事業者には損も得もないという説明である。

 確かに、消費税というネーミングは、如何にも、消費者が納める税金という印象を強く与えるものである。
 しかし、その実態はどうかと言えば、事業者に対する「付加価値税」に過ぎないのである。

 付加価値というのは、ザックリ言えば、売上高から仕入高を引いた粗利のことである。
 消費税というのは、この付加価値額に課税される税金なのである。
 ヨーロッパなどでは、素直に付加価値税と表現しているのであり、消費税などというネーミングは、日本特有のものだ。

 付加価値税というのは、税を徴収する側からすると非常にオイシイ税金なので、この導入と拡大は、財務省の野望なのである。

 例えば、所得税や法人税は、事業の最終的な利益額に対する課税である。
 ところが、この利益額というのは、言ってみれば、事業者の「意見」に過ぎないので、ある程度までは事業者が自由に操作できてしまう。
 しかも、所得がゼロなら当然に税金もゼロということになり、今のような経済不況下では、税収はどんどん落ち込むばかりである。

 一方、付加価値税は、事業の粗利に課税されるわけだから、ここがゼロということは絶対にあり得ない。
 そして、売上高や仕入高というのは、事業者の主観が入りこむ余地が無いので、自由な操作は出来ず、脱税が起こりにくいということだ。

 ちなみに、経済社会において「付加価値」というのは重要な意味を持つ。
 例えば、GDP(国内総生産)というのは、国内における全経済活動の付加価値の合計額のことである。
 日本のGDPは約500兆円であり、消費税による税収は約10兆円である。
 消費税には非課税取引や免税業者・簡易課税業者などの特例が多く存在するので、単純にGDPの5%(国税分は4%)ということにはなっていないが、例年、約10兆円のラインで「安定」している。

 国内の全企業が赤字決算になることは理論上あり得るが、GDPがゼロになることは絶対にあり得ない。
 その意味で、付加価値税というのは、極めて「オイシイ安定税収」なのである。
 だからこそ、財務省は、法人税をどんどん下げてでも、消費税だけはどんどん上げていきたいワケなのだ。

 さて、消費税が5%から10%に上がった場合、小売業者はどのように対応するであろうか。

 105円の物が110円になったところで、そんなに影響はないようにも思えるが、頻繁に買う物であれば、当然に買う回数は減るに違いない。
 そして、105万円の物が110万円になったら、買うこと自体を断念するかも知れない。

 消費税の税率アップがモロに売上高の減少に直結することは自明の理である。
 とすれば、小売業者が考えることはたった1つ。
 そう、「消費税増税反対セール!価格は据え置き!増税分は当社が負担します!」というキャンペーンだ。

 近隣の小売業者がこのようなキャンペーンを始めれば、他の業者も追随せざるを得ない。

 そもそも、消費税が「消費者から預かっている税金」だというのは大いなる「ウソ」であり、事業の付加価値額に単純に課税されている事業者対象の税金というのが消費税の正体である。

 従って、あくまでも納税義務者は事業者だから、消費者から消費税分を預かろうが預かるまいが、消費税は納税しなくてはならない。
 つまり、1000円の物を1000円で売ろうが、消費税込の1100円で売ろうが、それは事業者の勝手なのであって、1000円で売っても消費税分は納税しなくてはならないのだ。
 いくら「お客さんから消費税分は預かっていないので、納税できません。」と訴えてもムダというワケだ。

 さて、小売業者が消費税の増税分を価格に転嫁しないようになるとどうなるであろうか。

 まず、小売業者自身が中小企業の場合、利益率がその分激減し、倒産への道を歩むことになりかねない。
 次に、小売業者が大手量販チェーンの場合、仕入先への価格圧力を強めることになろう。卸売業者や製造業者は、その力関係から、どうしても従来どおりの価格での物品納入を余儀なくされ、結局は、中小の卸売業者や製造業者が倒産への道を歩むことになろう。

 実は、橋本内閣時代、消費税の税率を3%から5%に上げた際、多くの中小企業が倒産し、日本で初めて自殺者が3万人を超えた。たった2%の税率アップなのに、である。
 ここで、消費税の税率を10%にまで上げてしまうと、自殺者が5万人を超えるとの予想すらある。

 消費税が本当に「消費者から預かっているだけの税金」ならば、中小企業が倒産する理由がない。
 消費税の税率を上げれば間違いなく売上は減少する以上、価格転嫁は容易には出来ないのだ。
 そして、価格転嫁が出来なくなったツケは全て中小企業が被るのである。

 国税の滞納額のうち、実に50%近くが消費税である。このことだけでも、消費税の「過酷さ」が垣間見えてくるというものだ。

 ヨーロッパで付加価値税が成功しているのは、物品ごとに税率を変えたり非課税にしたりして、消費が落ち込まない工夫をしているからである。
 日本のように、何でもかんでも一律に課税したのでは、消費が落ち込むのは当たり前で、価格転嫁がしにくいのも無理はない。

 このような理屈を政府がどこまで理解しているのか甚だ疑問である。
 いや、と言うよりも、野田首相は、財務省ベッタリと言われているくらいだから、そんなことは百も承知の上で、財務省のご機嫌取りに終始しているのかも知れない。

 いずれにせよ、消費税の税率アップは日本経済を一層ダメにしてしまう可能性が高い。
 日本の企業の実に99・7%が中小企業であり、日本経済を立て直すには、中小企業を元気にすることが必要不可欠である。

 消費税の増税は、その中小企業を「死」に追い込むものであり、ひいては、日本そのものを「死」に追い込みかねないのだ。